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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第16章-3

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「いきなり現れるなんて…もう少しでバレるところだったじゃないか…用があるなら後にすれば良いのに。」

さっき彼女の視線を釘付けにした影に、怒ったように話しかける。
「僕の事を彼氏だと?」
八条さくらと別れた帰り道、気配を消した影に話しかけるのは、英澤茜と呼ばれる人間の女。
「ほとんど一緒に住んでるからね。万が一見られた時に言い訳しやすい。まぁ、日向なんて生徒、うちには居ないけど。」
肩に置かれた手に、茜は思わず身をすくめた。手は、ためらいがちに離れていった。
「君の父上の様に叩いたりはしない。」
肩の力が抜けて、ため息とも笑い声とも取れる音がする。

「そう…貴方はね。」
振り向いた彼女は、誰にも見せない顔で笑った。
「じゃぁどうして肩に触れたの?」
何故だろうと、影は思った。何かに惑う事など、自分には無いと常日頃から思っていた影だったが、この娘に関しては、よく分からなくなる。考え込む影に、茜は言った。
「駄目。あたしに興味なんて持たないで。」
そして、今沈もうとする夕陽を見て、小さく呟いた。
「…きっと後悔する。」

あたしは人形だもの。

茜は思った。そして、もうすぐ捨てられる。

「もう…いいんだ。」

自分には、たった一つの目的しか与えられていない。そしてじきに、さくらにとっても、彼女にとっても…

「もうすぐ…終わりがきてしまう。」

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「ただいまー…」
返事が無いのは分かっていた。今日は仕事があるって言っていたもの。
飃は、仕事の事について多くを語らない。中国から戻って、生活費を得、村の孤児達や働き手を失った家庭を助けるためにずっと続けて来た仕事だという。

だけど…恐いのだ。いつの間にか、私の知らない傷が増えている。それも、澱みや妖怪のつける様な切り裂かれた傷じゃない。銃瘡だ。誰にやられたのか、聞いても教えてくれない。



最近…また口が堅くなった。そういえば、私は飃の何を知っているんだろう。自嘲的な笑いが浮かぶ。…ふん。皆が飃について知っている以上には、何も。
幼い頃、自らにかけられた呪いの代償として母を喪い、その後の澱みと獄の来襲で父を喪い…その後中国へ渡って、破魔術や戦う術を学んだ。その後日本に戻ってから、私に逢うまで…何をしていたんだろう?そもそも、私は飃の正確な年齢すら知らない。

「空白だらけじゃない…。」
焦っているんだろうか、私は。私が飃の何を知らなくたって彼は確かに私を愛してくれているじゃないか…

でも…。

「あ゛〜…!」
うだうだ悩むのが私の悪い癖だ。悩んだところで変わる事は無い。悩むのでは無く、考えなくては。
 

考え な くて は……



そして、全く唐突に、不自然に、私は眠りに落ちた。


誰?
水面を滑るように、桜の花びらが舞う。水に触れれば、囚われた様に動きを止め…雨にうたれた水溜まりのように止めど無く広がる波紋に、時折微動するだけ。碧い水より蒼い空は、地面の淵との境も無く…陸地などそもそも存在しない海原の真ん中に…自分がある様に思える。桜の花びらがどこから来るのかもわからない。
そんな空間の真ん中に、私によく似た影が座っている。


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