飃の啼く…第16章-18
「何が?」
「あの娘、“堕ち”てしまうまでにそう時間はかからない…それで君は後悔しないか?」
茜は、しばらく黙って虚空を睨んでから言った。
「…後悔や迷いを抱く心なんて、とっくのとうに捨ててるわよ。」
そして、何かに見切りをつけたように歩き出した。黒いコートのポケットに手を突っ込み、肩を丸めて歩く少女の足取りは速く、追いすがる何かを振り切ろうとするかのように迷いがなかった。
空を裂いた傷跡のような三日月が、痛々しいほど凛と輝いていた。まだ乾かない地面に響く足音が、静かな夜をどこかへ消えていった。