飃の啼く…第16章-17
「それで?」
「…ッ…下さい…。」
先を促すように、飃が耳を嘗める。
「何を?」
恥ずかしくて、つい照れ隠しに殴りたくなる。その瞬間を待っていた飃が、私が振り向いた瞬間、深い口づけをした。
「んっ…」
それは、魂すら奪われてしまうようなキスで、待ち焦がれていたキスでもあった。手は勝手に飃の首に巻きついて、もっと引き寄せた。あっという間に、最後に残ったお互いの慎みも放り投げられて、飃が私の中に入ってきた。迎え入れた分、ため息が漏れる。言葉にすればただの言葉に過ぎないけれど、自分の中に沈んだ彼を感じるというのは、凄く…崇高なことのように思える。彼は、その一つ一つが私のどんな反応を引き出すか見ているようにゆっくりと動いた。そして最後に、一番深いところまで沈めて、そこで動きを止めた。
「どんな気分だ?」
少し苦しそうに、飃が聞いた。
「…すご…く、いいょ…」
たいしたことも思いつかない頭が、思ったことをそのまま伝えた。私はいつも、言葉が足りないのかもしれない。でもそれは、伝える必要が無いからだ。彼は十分すぎるほど解っているのだから。
「あぁっ…!」
動きが早くなる。火花が散るような錯覚が、閉じた目の奥で見えた。何も聞こえず、何も見えない暗闇に居て、そこから一気に空の上に上るような感覚が私を包んだ。
「ぁ…!飃…っ!」
ぎゅう、と抱きしめあったまま、息も出来ずにいた。満足したような心臓の鼓動が徐々に収まってようやく、私は深く息をついた。
「飃?」
目で返事をする。
「ありがと。」
飃の目が細くなって、宝石のような目がきらりと輝いた。
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「もう、限界って感じね。」
八条さくらがほとんど錯乱したような精神状態で澱みを切り刻んでいくのを見届けた後で、英澤茜は傍らの影に声をかけた。
「ああ…あの娘のことはかなり堪えたようだ。」
そして、聞く。
「いいのか?」
茜は馬鹿にしたように笑った。