飃の啼く…第16章-12
ああ…嫌。
帰り道で、何匹も澱みを見た。
何匹も、何匹も、何匹も。
何匹も殺してきたのに、ショウジョウバエみたいにのさばって、ものを考える頭も無いくせにそれでも目障りにそこに居続ける。人通りの多い夕暮れ時だったから、私はあえて九重を振るわなかった。すれ違うたびに、腐ったどぶのにおいがする。
嫌。
また飃は不在。今日はご飯を作る気も起きなかった。
「あの木…。」
最近良く夢に出てくる、あの木は一体なんだろう。あの夢を見始めたのは、あの子が殺されたあの日からだ。私の中の、何かが…あの夢を見れば真実が解ると告げている気がした。殺された美桜さんが私に何かを教えているんだと…そんな気が。大体、飆は自分ひとりに任せろといっていたけど、そんなんだからあの子を死なせるような羽目になったんじゃないのか?あの子にしたって…臆病風に吹かれて逃げまわったりせずに、私のように武器を取って戦うことを選べば生きていたかもしれないのに…。
え?
私、何を考えてるんだ?いやだ…そんな風に思うわけない…美桜さんは被害者なんだ…おまけに、境遇としては姉妹のようなもの……姉妹みたいなものなら
―何故、あなたが?
「え?」
草むらに羽音が満ちている。鼻と口を手で押さえないと、蛍が入ってきてしまう…。うわんうわんと、耳鳴りのように響く羽音。煩い。声が聞こえない…。
ぬかるんだ地面は暖かくて、かすかに金気臭い匂いがした。それが何かを確かめはしなかったけれど、私は地面をぬらすものが血であると知っていた。ぐっちゃぐっちゃと、足音を立てて進んでゆく。枯れ木はくねくねと動き、その枝に実をつけた。
私が木に触ると、その実がぼとりと落ちる。
それは実ではなく人の首で、枯れ木は殺された女の体だった。
―何故殺されたのが私で貴方は生きているの何故飃は貴方を選んだの何故飆は私を見つけてくれなかったの何故貴方は死なないの?
何故?
そうだな、何故だろう。
夢から突き飛ばされるように、目が覚めた。