旅立ちの日-2
「何処のバス停?」
「彼女ん家、〇〇なの。だからソコのバス停から帰れるのよ」
一巳は、マンションから500メートルは離れたバス停まで里香を送る事になった。
外に出ると、西は日射しがあって眩しい位だが、東の空は藍色とオレンジが重ね塗りでもしたように見事なコントラストを彩っている。
2人は無言のままバス停に向かう。一巳も初対面の女の子と2人だけで話すのは苦手としていた。
〈何かしゃべらないと〉と一巳が考えていた矢先、先に里香が喋り掛ける。
「美那ちゃんが……」
「エッ?」
あまりに小さな声で、聞き取れなかった一巳は聞き返した。
「美那ちゃんが誘ってくれたんです。〈面白いからおいで〉って」
里香は少し声を上げて語った。一巳も緊張がほぐれたのか、
「そう。で、どうだった?失礼な事言うヤツがいて幻滅したんじゃない?」
一巳の問いに里香は、過剰な反応で両手をワイパーのように振りながら、
「とんでもない!楽しかったです」
「そう。なら良いけど」
里香は俯きながら応える。
「私、初めてです。親以外から言われたの……」
「エッ、何が?」
ニヤリッと笑って聞き返す一巳。さすがにワザとらしかったのか里香は頬を膨らませると〈もうっ!〉と、一巳の肩を軽く叩いた。遠目に見ればじゃれあってるようだ
「アッハッハッ、ゴメン……でも、さっきも言ったけど自信持っていいって。その唇なんて魅力的だもん」
一巳の言葉に里香は再び頬を染める。
バス停まであと100メートルのその時、彼らの横をバスが走り抜けた。〈あのバス!〉という里香の声を聞いた一巳は、そこから駆け出した。
「そのバス待てーー!!」
だが、叫び声も虚しくバスは走り去ってしまった。一巳は息を切らせながら里香のもとに戻ると、
「…つ…次の…バスは?…」
里香は腕時計と時刻表を交互に見つめると、
「…20分後の18時40分です……」
一巳はバス停のベンチに腰を降ろして、
「じゃあ…戻るのもなんだから、ここで待つか?」
すると、里香はまた両手をワイパーのように振りながら、
「い、いえ。後はひとりで大丈夫ですから……」
「何言ってんだ。こんなトコにひとりでいたら危ないだろ!」
そう言うと立ち上がり、そばの自販機に向かうと缶コーヒーを買ってきた。
ふたたびベンチに座り、里香にも座るよう促す。里香は言われるままに座る。
しかし、2人の間は30センチ以上開いていた。