『ヘリクツ』-2
実際の社会は群れから外れた者に手を差し伸べたりはせず、むしろ積極的に放逐するのだ。「思いやりって大事だよ」なんて偉そうにうそぶいた教師は、駅でゴミを漁る浮浪者の横を平気で素通りするのだろう。それどころか「やーね、汚らしい」だなんて眉を寄せたぐらいにして。
俺は嫌だった。一貫して嫌なものは嫌だと主張していたい。人形ではなく、人間として。
この女に、俺の内面にまで干渉するような権利は無いはずだ。そんなことをされる筋合いは無いはずだ。
「煩い。だまれ」
俺は立ち上がり、教師の顔を殴っていた。信じられないものでも見るかのように、教師が俺を見上げてくる。その目を見ていたら、『キレる子供』というメディアで頻出の語句がふと頭に浮かんだ。普段は真面目で、大人しい子供……。
「いや……！誰か！」
怯えて悲鳴を上げる教師の髪を掴み、さらに数回殴りつけた。
――『キレる子供』が悪いんじゃない、『キレさせる大人』が悪いんだ。
「先生、俺は、あんたも……嫌いだ！」
床で頭を守るように抱え込み、うずくまる教師の脇腹を蹴り上げる。何度も何度も。俺の爪先が腹に食い込む度、教師はカエルが潰れるような醜い呻き声を漏らした。
「ぅ…グスっ、ごめ…なさい……う、ぇ…ひっく…」
やがて嗚咽混じりに許しを乞い始めた教師を、俺は冷めた目で見下ろした。なんて惨めったらしい姿なんだろう。俺には教師がさらに薄汚い下等な存在に見えてならなかった。
「なんで簡単に謝る？それでもあんたは正しいんだろう！？さっきの自信はどうしたよ！」
「ご、めっ…なさい…ごめ…なさっ……」
「ちっ」
中身の伴わない、見かけ倒しの権威など簡単に失墜する……。こんな風に。
「まだだ……足りないんだよ！あんたには、もっと思い知らせてやらないと……自分が、間違ってるってことを……」
言いながら俺は自分の股間を寛げ始めた。カチャカチャとベルトの金具が鳴る音に気づいたのか、教師はヒッと短い悲鳴を上げて逃げようとした。そんな教師の足首を掴んで、強引に引き寄せる。
――俺はここで、この女を犯さなければならない。
その時、俺の理性は妙な方向に働いていて、俺は教師を犯すことで暴行についての口封じをしようと考えていた。
教師という立場の人間が、生徒に犯されたとなっては仕事も続けられなくなるだろう。この女はそれよりも、事実を隠蔽することを取るだろうと。
「やめてええーっ！！いや、いやッ助けて、だれかあーーーーッ！！……ふぐッ」
「ぎゃーぎゃーうるせえんだよ。殺すぞ！」
煩く騒ぎ立てる教師を再度殴りつけて凄んでみせる。もちろん、俺だってこんな雌豚のために人生を棒に振るような真似をする気は無いから、その言葉はただの脅しだ。だが恐慌状態の教師にはそんな判断はつかない。情けなく歯を鳴らして震えながら、怯えきった目で俺を見ている。
――こうなってしまえばコイツも、ただの女だなァ。
ふっと笑って俺は既に半立ちの一物を教師の眼前に晒した。
「しゃぶれ」
短く命令を下すが、教師は怯えの中に困惑の入り混じった複雑な表情のまま、俺を見上げるばかりで、なかなか行動に移そうとしない。
ちっ。こいつは本当に馬鹿だな。拒絶しようが服従しようが、どちらにせよ同じことを強制させられるのなら、服従して最小限の被害で済ませた方が圧倒的に得をするのに。拒絶しても暴力の末に強制させられるのは目に見えているこの状況。
「分かってると思うけど、こんな時間に偶然ここを通りかかる人なんてまずいないから、いくら騒いでも無駄。あと、言うこと聞かなかったら殴ってむりやり強制させるだけだから。抵抗したらその顔の形が歪んで現代の医学じゃ修復不可能になるぐらいまで殴るから、そのつもりで」
まるで死刑宣告のように悠々と告げると、教師は血の気が失せて紙のように白くなった顔を絶望に引き攣らせた。
……いい顔、するじゃん。