電車に淫れて Side Girl-1
今日もいつもと代わらない。
この時はまだ、そう思っていた―――。
プルルルルル…
「間も無く、3番線に電車が参ります。危険ですから…」
電車到着のアナウンスが聞こえて、少女は階段をかけおりた。
いつもと同じ位置に並ぶ。
少女の名は宮内千夜。
東京都内の名門私立女子高に通う17歳。
初等部から大学までエスカレーターで上がって行くうえ、外部受験者は高校まではほとんどいない。
学年の大半が知り合いで、女子ばかりという環境は心地良い一方でどこか物足りない。
それでも受験に悩まされず、温室で蝶よ花よと育てられていることは、結果的には幸せで、今の生活にそれなりに満足している。
そんな千夜の目下の悩みは、男性経験の少なさだった。
二月ほど前に彼氏と初体験はすませたものの、あまりの痛さにそれ以降は一緒にいてもそういう空気になるのを避けていた。
友人たちは慣れれば気持ち良くなると言うけれど、初体験の印象が強すぎて、最近では彼氏ともうまくいっていない。
あれが気持ちよくなるのかなぁ…
ぼんやりと考え込んでいると、ホームに静かに電車が滑り込んで来た。
人でひしめきあっている電車に毎日のことながらため息をつく。
この空間に40分以上いなければならないのだ。
ドアが開くとそれ以上考えるまもなく中へと押し込まれた。
気がつくと反対側の扉にくっつくようにして立っていて、こちらがこれから30分以上開かないことを思い出しほっと息を吐いた。
その時だった。
電車が動き出した瞬間にお尻全体に嫌悪感が走る。
触られた…!?
ビクンと千夜は身体をこわ張らせた。
痴漢かもしれないが、怖くて振り返れない。
「ごめん」
すぐななめ上からした声に千夜は顔を上げた。
こちらを申し訳なさそうに覗き込む若い男と目が合う。
美形とまではいかないが、冷涼な育ちの良さそうな顔立ちと、身に纏う綺麗な空気に思わず目を奪われた。