Whirlwind-14
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青嵐会の頭、青嵐(あおあらし)にあったのは、それから一週間もたたない日本のとある寂れたバーでのことだった。
「お前が“申し子”のワール…いや、飆(わーる)、だな?」
青嵐は、俺の目を数秒間のぞきこみ、そこにあったものが何であったにしろ、満足してうなずいた。
「飆、こっちがもう一人の申し子…。」
薄明かりの中に居たのは、日本人にしては背の高い男だった。黒い髪が緩くウェーブして腰の辺りまで伸びている。頭のてっぺんには、鋳金したての銀のような色をした、狼の耳が突き出ていた。男は振り返ると、混じりけの無い金色の目でこっちを見た。
「わーる…異国の言葉では“つむじ風”という意味だと聞いた…」
そして、自分の発した声の余韻が消えるのを待ったのか、暫し時間を置いたあと、こう言った。
「己の名も飃と言う。以後、よろしく頼む。」
俺は直感的にわかった。吹花が言ったことの意味が。
この男は俺に“よろしく頼む”気なんて微塵もない。こいつは一人でいたから今まで生き残り、誰にも侵されることのない闇を内包しているからこそ生きてゆけるのだと。
俺はただうなずいて、イスに腰掛けた。
青嵐は俺たちに今一度事の成り行きを説明し、少女の写真を見せた。飃という狗族は、その写真のうちの一枚に何か思うところがあるようだったが、俺は何も感じない。
ああ。今なら、親父の気持ちがわかる。
尋ねてきた見ず知らずの女を抱いた気持ちが。
『殺せ、ワール。あいつを見つけて、殺せ。』
わかったよ、親父。
…わかったよ。