Whirlwind-12
俺がこの姿になるときは、野犬も寄ってこない。普通にしていれば大の大人の腰までの高さがあり、立ち上がると軽がると身長を追い越すこの巨体は、見かけた人間がいたなら、自分が酔っているか、寝ぼけているか…悪夢を見ていると思うだろう。
時代が時代なら、フリークス(奇形)として、サーカスやら見世物小屋で死ぬまで鞭打たれて暮らさなければならなかったから、啓蒙思想の浸透には感謝すべきだ。望んだわけでもない身体障害を奇形として見世物にしたのはこの国に限ったことではないが、獣たちをいじめたり、そういう気の毒な障害者たちを笑い、あざける見世物に嬉々として金を払っていた人間たちが大勢居たと言うのも事実なのだ。全く、たいそうな娯楽だ。フリーク(化け物)はどちらだというのか。
この姿で居る時には、こうした考えがよく浮かぶ。自分は人間とは別の次元に居る。見下ろす立場なのか、見上げる立場なのかまではわからないが、とにかく憎くて堪らなくなる。そして同時に、哀れにさえ思う。
風が変わった。
―誰だ?
隠れようともせず、暗闇から現れるものが居る。鼻を焼くような消毒液のにおいが、俺を知らずと唸らせた。
「…見事だ。」
国籍を特定することは難しかった。いかにも貴族的な顔をした欧米人にも見えるし、顔立ちの良い東洋人のようにも見える。でも、その正体が何であるにせよ……絶対零度の炎が心臓を焼き尽くしてでも居るような、恐怖と、怒りを感じた。
―お前は…“何”だ?
「君の咆哮を、ぜひとも聞きたい…奈落の底からでも這い上がってくるような咆哮を。」
―?
そのまま針となって固まってしまいそうなほど、体中の毛が逆立つ。馬鹿みたいに滑稽なネオンサインが、男の顔を照らして、その顔をピエロのように映し出した。“怪物”たちを鞭打って歌う、気の狂ったピエロのように。男の口が動いた。
「明日の18時ヒースロー空港の第一ターミナル」
俺は気を失った。
+++++++++++++
「吹花!!吹花ぁ!!」
どこだどこだどこだどこだどこだ…
消毒液のにおいで鼻が焼けてしまったせいで嗅覚が効かない。人間たちがこんなに憎かったことは無い。邪魔だ、皆邪魔だ!!
「どけ!!」
女だろうが子供だろうが容赦なくつき飛ばす。構っていられない。もう時間が無い。