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地図にない景色
【初恋 恋愛小説】

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地図にない景色・2-3

 あれはいつのことだったか。多分、高校1年も終わりに差し迫った冬の頃。
あたしのカバンを勝手に漁り、ラブレターを見つけた母さんがあたしを詰問したことがある。
 あまりのしつこさにいい加減辟易して、ことのあらましから顛末までを洗いざらい話して聞かせたあたしに、母さんは最初こそ嬉々として耳を傾けていたものの、段々とその表情を曇らせ、しまいにはウンザリしたように呟いたのだった。
『せっかく私譲りの美人に産んであげたのに、いったいなにがダメだったのかしら』
 と――。
ちょうど夕飯の片付けも終わり、テーブルで食後のお茶を啜っていたあたしは訊ねた。
『なにがよ?』
『だって、あなたいくつになると思ってるの?16よ、16!普通、あなたくらいの年頃になるとね、女の子っていうはみんな、恋愛ごとに興味を持っているものなの
よ。
それなのにあなたときたら、彼氏はおろか男友達の1人としてウチに連れてきたことがないじゃない』
『しょうがないじゃない。寄ってくるやつ寄ってくるやつ、みんなあたしの外見しか見てないんだから』
『そこがおかしいっていうのよ!』
 ビシッと指差し、母さんは言った。
『それのなにが悪いっていうの?男や女に限らず、誰だって初めは見た目から入るものなのよ。それから段々と愛情や信頼を深めていくもんなんじゃない。
 それをあなたって子は、いつもいつも馬鹿の一つ覚えみたいに……』
『うるさいなぁ』
『いーえ。この際言わせてもらいますけどね!あなたは恋愛に夢を見すぎよ。いいから騙されたと思って、一度、デートくらいしてみなさいよ。そうしたらひょっとして気が合ったりするかもしれないじゃない』
 やたらとムキになって娘の色恋沙汰に口を出す、母。そんな母さんに、あたしは鼻を鳴らして笑ってやった。
『それで二回も失敗してるくせに……』
『なっ――!?』
 ――とまあ、そんなエピソードまであるくらい、あたしは恋愛事に免疫がないわけで。そんな恋愛初心者が初恋をしている相手に名前を呼ばれて赤面するというのは、
これはもうどうしようもないことなのである。
 それにしても、あの時の母さんの顔といったら今思い出しても笑える。ハトに豆鉄砲とはまさにあのことだ。ざまあみろ。アハハ。
「なにがそんなにおかしいんだい?」
「えっ?」
 電話の向こうのテノールに、今度は別の意味でドキリとした。
 ――しまった。今は電話中だ。
「返事もなく黙り込んだと思ったら、急に笑い出したりして」
 どこか呆れているような彼の声。
「えっ?いや、その、」
「それに気のせいか。声の質も以前より大人しいというか、しおらしいというか」
「あ、あの、それは……」
 うまい言い訳が見つからずにオタオタするあたしをどう思ったか、光司は深刻な声音を作った。
「もしかして、アキラ……」
(やばい!)
心臓がドクンと、大きく跳ねた。携帯を持つ手がワナワナと震える。
(もしかして、あたしがこいつに惚れちゃったってことがバレた?)
 それはいくらなんでもマズイ。あたしからしてみれば、16年生きてきてようやく芽生えた恋心なのだ。大切な初恋なのである。
その時がきたならば、実るにしろフラれるしろ、告白は相手の顔を直に見てするのだと、前々からずっと心に決めてさえいた。


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