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地図にない景色
【初恋 恋愛小説】

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地図にない景色・2-2

 翌日の月曜日。
「えっ、ええ〜!?」
「ちょっ、恵美」
昼休みの教室。のどかな活気を打ち消すように、恵美は目を見開いて叫んだ。立ち上がった拍子に、座っていたイスがガタンと倒れ喧しい騒音をかき立てる。
「うっ、嘘でしょう!?」
「恵美ったら。しっ〜!」
「あっ」
あたしの言葉に、恵美はハッとしたように我に返って、周りを見渡した。
クラスメイト達の視線が何事かと矢のように恵美に注がれている。
なんだか、デジャヴ。
恵美はそそくさと倒れたイスを直すと、乾いた咳を一つ、あたしに向き直った。
「ああ、その……ごめん」
「ううん。あたしも気持ちはわかるから」
恵美の謝罪にあたしは苦笑を浮かべて答えた。
「にしても、驚いた。それってマジな話なの?担がれてるとかじゃなくて?」
「うん。手帳も見してもらったよ。そりゃあ、本物かどうかはわからないけど」
「アキラに偽物を見せてどうすんのよ。それは間違いなく本物だって」
「だよね」
はぁと、疲れたように息を吐き、恵美はしみじみと呟いた。
「それにしても、光司さんが刑事、か。似合わないな」
同意を込めて、あたしも深く頷いた。
「ホントにね」


恵美と彼とはすでに顔見知りだった。引き合わせたのはもちろんあたし。
中間試験が終わり、学業に一段落ついたところで、あたしは意を決し光司の携帯に電話をかけることにしたのだった。
 以前、コンビニのレシートにメモされていた十一桁の数字を緊張した指で打ち込む。
 コール三回。目的の相手に間違いなく繋がる。
「――もしもし」
「もっ、もしもし」
あの出会いからすでに一週間。もしかしたら忘れられているかもしれないというあたしの心配は、しかし、杞憂に終わった。
たどたどしい、傍から聞けば不審でしかない呼び掛けの声。けれど、彼はそれだけで電話の主が誰であるのかを気付いてくれたのだ。
「ああ、アキラか。どうかした?」
 耳に優しいテノールが紡ぐ自分の名前。
 それを耳にしただけで、あたしは不覚にも返事を忘れ、ドキリとしてしまった。
(覚えていてくれたんだ、あたしのこと)
 そう思っただけで嬉しさと恥ずかしさで見る間に顔が赤くなるのが、鏡なしでもよくわかった。だって、しょうがない。
 自慢ではないがあたしはこれまでの16年、恋や愛だのというものとは無縁の世界で生きてきた人間だ。

 告白されたことは多々あれど、どいつもこいつもあたしの見てくれに惚れただけの中身のないものばかり。そんなやつらを好きになれなど、あたしにとっては地球の自転を逆回転にするよりも難しい。
 そんなあたしを母さんはよく「恋愛潔癖症」などと言って嘆いた。


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