年の差-1-6
「なぁ…」
もう一度、問い掛けてくる。
「だから〜何なの?」
茶化す様に言う。
視線の先には、訳の分からない数式が展開されている紙。
「なぁ…もう分かってんだろ?」
この言葉が意味すること。
分かってる。
私は、高井の一番の理解者と自負している。
だから、分かるよ?
貴方が言わんとすること。
この5年間。ずっと、そうだった。
最初の二、三年は本当の『友情』だった。
ここまで信用出来る男はいないと思った。
だから、色んな話しが出来た。
食べ物、バドミントン、勉強、将来、下ネタ。
そして…恋愛。
この話をしているから、今高井が大切にしている彼女のことを知った。
性格が一見、ルーズに見えるのに、彼女は大切にしている。
冗談で、『北野みたいな女、好きだよ』と言っておきながら、全く正反対の女の子と付き合う。
私達の『友情』に変化を見せたのは、あの日…私が、フラれた日のことだ。
私はフラれて呆然としているのに、何故か高井へ電話した。
別れを告げられた駅前まで、車で迎えに来てくれた。
…彼女がいるのに。
でもその時ばかりは、そんなことを考える余裕がなかった。
ただただ、泣いていた。
高井は私の横で、黙って運転し、何も聞かなかった。
この時は、思った。
『なんで、高井を好きにならなかったのだろう?』
と。高井なら何でも分かってくれている。
冗談を言いながらも、心配してくれる。
でも、私をそうさせなかったのはあの男−陸の存在だ。
最初見た時は、『何?この厳つい顔した人は?』
と思ったけど、あの飲み会の帰り、高井とはまた違う『優しさ』を感じた。
そして、この上ないくらいに『ドキドキ感』を味わった。
この人に恋してる−分かってからは、早かった。
帰りに家に送ってもらったり、事ある毎に頼ったり。
『体で返してな』なんていう冗談さえも、微笑ましく思える。
『菜海がいたらホッとする』
私をギュッとしてくれる時に言ってくれる言葉。
『菜海と一緒にいたら楽しい』
どこか行った時には言ってくれる。
『菜海に何かあったら、俺はどうしたらいいの?』
私が、車でぶつかられた時、入院先の病院で言われた。
『菜海、大好き』
セックスしている時、陸が果てる前に必ず言う言葉。義務じゃなくて、心からの言葉だって。そう感じる。
そんな思い出、感情が一気に頭の中で駆け巡る。
だから、私はこの道を選ぶ。
「何が?ってか早く片付けしなきゃ」
その瞬間、肩を掴まれる。
びっくりして振り返ると、高井の顔があった。
色白で、綺麗な眉毛、くりっとした目。人を挑発するような言葉を発する唇。
軽くパーマのかかった茶色い髪。
身長は10?以上違うため、上から眺められる。
「北野…まさか…」
高井も悟ったんだ。
私の決意を。