BUCHE DE NOEL-6
昼食の時間を過ぎた頃に、彼女は目を覚ました。看護婦さん(これまた美人だった)が、昼食はどうするのか訪ねてきたが、彼女はいらないと答えた。
「目ぇ腫れてますけど」
携帯をいじりながら俺は彼女に言った。ぐずっとまりあは鼻をすする。
「小説、感動して泣いてそのまま寝ちゃった」
ティッシュをとってチーンと鼻をかむ。そして、俺のゴミ箱めがけてぽーんとちり紙を放り投げた。
「こら」
「うん?」
「……いや」
目をきょるんとさせて首をかしげられると、俺は彼女に尋ねようと思っていたことも吹き飛んでしまう。
「自分のゴミ箱は?」
「さぁ」
ふふ、と彼女は笑う。まりあが笑うと、俺もついつい笑ってしまう。
「明日の手術頑張ってね」
ふいに真面目な顔になって言うので、俺はひるんでまともに返答できなかった。
「明日が終わればXmasまであと2週間かぁー」
Xmasか…。パーティーのことが頭に浮かんで、なぜか俺は嫌な気持ちに襲われた。
「ブッシュ・ド・ノエル食べたいなぁ」
そう言ってにこにこする彼女に、そうだな、と笑って答えた。すると彼女は目を輝かせてまたにこにこしていた。
「足おめでとー!!」
まりあは朝、俺のところにやってきた。足の手術が終わったあと、夜に麻酔が切れると俺は情けなくもうめいて周りに迷惑をかけてしまったので、個室にしばらくうつされたのだった。
「今日308号室にもどれるんだって!」
よかったね〜と彼女は弾けた声で俺に笑顔をむけた。
「なぁ」
「ん?」
「なんで一週間も会いに来てくれなかったの?」
手術後、2・3日は痛くて誰にも会う気がなかったが、その次の日から和也たちが、前とは別の女をつれて見舞いに来たし、その次の日は山岡コンビ(マシンガントークに打ちのめされた)、そのまた次の日は母さんが“ケータイ代高いのよ!”と怒鳴りに来る(見舞ってくれよ)始末だったのに。
「うぅん、まぁ色々あって、ね?」
「そっか」
なんとなく俺は自分がショックを受けていることに気付いて、慌てて話を切り替える。
「Xmasまであと一週間だな」
「そうだね」
……?なんだか彼女の様子がおかしい。
「私、明後日退院なんだ」
お薬のんで、約束守ればもう大丈夫なの、と付け加えて彼女はうつ向いた。
「俺も明後日だぜ。足、今日ギブスとれるし」
「……」
ますますうつ向く彼女。俺は、サイドの椅子に座る彼女の頭に手をおく。
「メアド、教えて」
「え?」
「メールする」
「え!?」
彼女の瞳に明るさが戻る。俺は心があたたかくなってゆくのを感じた。
「Xmas会おう」
自然にそう口にしていた。パーティーのことなんてカケラも思い出さなかった。
「ほんとに?」
そう言って紙とペンを探そうとごそごそする彼女は本当に可愛いと思った。
「ほんと」
俺が、少しずつ自分の心に変化が起こっていることに、
もう少し敏感だったら
素直であったら
もっといい結ばれ方をしただろうか。