BUCHE DE NOEL-3
「私じゃイヤ?」
今までへらっとしたところしか見せなかったのに、しゅんとした表情でたずねてくる。
「そんなことねぇよ」
「私、子どもっぽいから」
妙に寂しそうな表情を浮かべる。俺の胸は少し締め付けられるような感覚に襲われた。
「可愛いじゃん。甘いものスキなとこも」
「ほんと……?」
「あぁ」
にこっと笑って、またパンをぱくっと食べ始める。19歳とは思えない反応が俺には新しい。
「私ね、お菓子やさんになるんだ」
またへらへらして、オレンジジュースをコクンと飲む。
「いいんじゃね?」
俺は飯をかきこむ。焼き魚をほぐして、銀飯のうえにのせる。
「大学どこ行ってんの?俺K大」
んー、と彼女はジャムをぐちゃぐちゃかきまぜて、それからふと手をとめた。
「もういってないよ」
「そっか」
敢えて何も聞かないでおいた。なんだか不思議な時間が流れた。
「ごちそうさまでした」
そう言うと、私の先に片付けてくるねとカタカタ鳴らして部屋をあとにした。
山岡コンビの声を聞きながら、俺は魚の乗ったご飯をまたかきこむのだった。
それから、俺は病院だっていうのに“暇を持て余す”なんてことはなかった。山岡コンビのマシンガントークやまりあの幼い会話は飽きることがなかった。
カチカチ……
「また女の子とメール?」
携帯をいじる俺をみると、いつもそう聞いてくる。ただ、嫌味に聞こえない口調なので不快感はない。
「うん、まあ友達。明日手術だからみんなで見舞い来るって」
‘送信完了’と出て、俺は携帯を閉じた。
「そっかぁー!!」
俺の見舞いなのに、なんだか彼女の方が喜んでいるのをみて俺は笑った。
「まりあは?友達呼ばねぇの?」
「私?…信頼できる友達、一人だけだから。しかも忙しいだろうからなかなか声かけづらいんだ」
「そっか」
俺は、彼女の言葉を聞いて、軽く質問を投げたことを悔いた。
「あんまりまわりと合わないみたいなんだぁ。理解してくれるのは綾乃ちゃんくらい」
アヤノちゃんくらい、と言う言葉がやけに俺の心に響いた。俺まで淋しい気持ちが心に染みだしてくる。
「わかってくれる人が一人でもいればそれでいぃじゃねぇか」
本当にそう思って発した言葉が、ただなぐさめるための言葉のように響いて、ますます淋しさが染みて俺は黙りこんだ。
「雪兎も理解してくれるといいな」
「え?」
ぱっと顔をあげると、彼女の頬が桃色に色付いていることに気が付いた。そこに、ガヤガヤと俺の見舞い客がタイミング悪くやってきた。くっそ、予定時間よりえらく早ぇじゃねえか……。
「うさぎ〜!元気にしてるか?」
「おぉ」
ちらっと彼女をみると、さっきのことなんかなかったかのように小説を読んでいた。なんだかつれない女だと思った。