年の差-0-5
「いないよ。色々、あってね」
そう。本当に驚いた。
あいつには…
「色々…ですか」
「そう。色々と…」
沈黙。
何があった?とか聞いてくれてもいいのに、聞かない…
彼女の性格がそうさせているのか?
バッグを膝の上に乗せ、足もきちっと閉じる。
黒い膝上の丈から伸びる足は健康的なぐらいの細さ。
決して、細いとは言い難い体形。
でも、スポーツをしていたのだろうか?見た感じ、筋肉があるように見える。
もっと彼女のことが知りたい。
どんな風に話して、どんな風に笑って、どんな風に勉強して…
全てを知りたい。
やっぱり俺は、彼女が好きなんだ。
「…え?」
「え?」
もしかして…俺…
「真下さん。何が好きなんですか?」
やっべー、口に出してたよ!
「えっと…」
あなたです、なんて恥ずかしくて言えねぇ!今まで、自慢じゃないが自分から言ったことなんてなかったから。
「もしかして…」
やべっ!気付いた?
「中部さんのことですか?」
「…へ?」
「今日、仲良さそうに話していたから、そうなのかなぁって」
「んな、まさか!俺が好きなのは」
「違う人、ですよね?さっきのは冗談です。気にしないで下さい」
あ、ばれてたのね…
「私も、見ていて興味があるかないかぐらい分かります。」
「あ、そうなんだ。ん?ってことは…」
彼女を見る。
少し照れている。
もしかして…
「俺のこと、見てくれてたとか…?」
「…はい」
俯き加減で言う。さっきまで、いじっていたのに、途端に素直に。
「北野さんって、可愛いね」
「えっ?!」
すごくビックリしたように見る。
「そっそんなこと…あ、駅ですよ!降りましょ?」
慌てて立った彼女は、まだ動いている電車のせいで、こけそうになる。
それを防ぐ為に、彼女の腕を掴む。
「…っと。そんな急がなくても大丈夫だよ」
彼女の腕を離し、自分も立ち上がる。
ドアを開くのを待っている彼女の横顔は、飲んでもいないのに、赤くなっていた。
地上に上がる階段を登りきり、立ち止まる二人。
沈黙が続く。
「じゃ、私はこっちなので…」
またしても、口火を切ったのは、彼女だった。
「あ、じゃ送るよ」
「いえ…大丈夫ですよ!自転車だし。」
でも、この辺りは外灯があるとはいえ、やはり女性を一人で帰すわけにはいかない。
第一、それでは送ったことにならない。
「いや、送るよ」
「いや、いいですって!」
彼女から、聞いたこともないくらいキツイ口調。
「…っ、ごめんなさい。」
「…何が?」
「キツイ言い方をして…」
俯く彼女。素直なんだなぁ…
「じゃ、どうしたら俺は、北野さんを家まで送れるんだ?」
考える彼女。
返事は…
「歩いたら…送れます」
彼女は意外と天然だった。