恋愛模様〜ラブレボ〜-3
「え、トイレ我慢した後の解放感みたいなの?」
奈都は、相変わらず的外れ。
オールドファッションをぱくりと口に加えながら美希が、ビシッと奈都に指さす。
「と・に・か・く!アンタも好きな人とエッチしたら解るわよ。で?あれから気になる人できた?」
「あ、そういえばこないだね…」
「! 何か出会いがあったの?」
奈都に気になる人ができるなんて…と友はドキドキしていた。
「…え、気になる人って言うか」
ゴクリ…と息を呑む3人。
「だ、誰なの。まさか、烏ま…」
「返却予定を守んない私に気付いた図書委員…。」
ガックシ!美希・緑里・千遥は肩を落とす。
「誰?それ」
「いやあ、顔はもう忘れちゃったんだけど、図書委員さんが、こないだ本を返す時に私の名前を聞いて来てね。慌てて逃げちゃった。私、ブラックリストに載せられたかも…。」
うなだれる3人…。
「期待したのに、その様子じゃあ、恋愛に発展しそうにないなあ。」
「ううむ、こればっかりは良い縁が来ないとね。…っと、今から本屋に行くの。」
奈都は自分のカップを片しながら、一言付け加えた。
「あ〜そういや、雨降るよ。この後!気を付けてね。じゃあ、お先に!」
「ホント、奈都って動物的勘は鋭いのに…。恋愛は鈍いねぇ。可愛い顔してんのに」
「ま…、あたしらは祈りましょ。奈都に早く男が出来る事を…。」
走りさった奈都を親友達は見送った…。
当の本人が店から出ると、雨が降り始めていた。
「やっぱ降ってきたかあ。傘無いけど…。走っちゃえ!」
烏丸五良は、参考書を買って本屋を出た所だった。
ザァ―――――ッ
土砂降りだ。
「あー、やっぱり。降ってきたか…。傘用意してきて正解だな。」
こちらは、事前に天気予報で確認済み。何に置いても抜かりなし・烏丸五良である。バサッ…携帯用の傘を差して出た時…
店先に駆け込んで来る、女の子。挙句、ツルッと滑る…!
「きゃ…きゃっ!」
目の前でつんのめる女の子をスローモーションの様に見ながら、五良はフワリ、と受け止める。
「…っぶね。大丈夫で…す…か。」
五良の腕の中にスッポリ入った女の子に声を掛ける。
「ふ…ふあ〜い。ごめんなさい!慌ててたから」
ドクン…!五良の体温が上がる。
「若佐…さん」
腕に抱いたまま、五良はその名を呼ぶ。
「はい。若佐です。どなたでしたか…」
間の抜けた返事である。
〈やっぱり僕の事、知らないようだ…〉
なんだか肩の力を抜く事が出来る。
「えっと…、覚えてないかな。図書室で前に会ってるんだけど…」
「…?…っあ〜!こないだの!」
にっこり、極上スマイル、の彼。この笑顔で落ちない女の子はいない。
「図書…委員さんでしたか…。この前は本の返却期限が、過ぎてしまっててすいません。あの、あの、いつも期限内に返そうって…。でも読み込んじゃうんですよね。…えっと、ごめんなさぃぃ…。」
…落ちる筈、なのだ。奈都以外は。
〈やっぱり、僕の事図書委員と思ってる!生徒会長なんだが…〉
…あまりの奈都の知らなさぶりに、五良は楽しくなってきた。
「いや、いいよ。そんなに返却期限は厳しくないから。それより、ビショ濡れだね。走って来たみたいだけれど。」
奈都はホッとする。
まだ、五良は奈都をしっかり抱き止めたままだ。女の子の柔らかさが手に感じられる…。
前髪から滴がポタ、と睫毛を伝う。長い睫毛だ。
濡れて色っぽい奈都にドキリ、としてしまう。抱く手に力が入る…。
「痛っ…あの、図書委員さん?」
はっ!我に還る五良。
「…!すまない。この前は、ドアに挟んでしまったね。も、もし良かったらお詫びにお茶、ご馳走するよ。」
〈なんだ、この心拍音…!〉
頭に心臓の音が響く。
「いえいえ!私がいつもどんくさいんです…。お茶もさっき飲みましたし。お気持ちだけで」
烏丸ファンが聞いていたら、有り得ないお断りだ。ヨイショ、と奈都は五良の腕から離れる。空いた腕を、五良は寂しく感じた。
「じゃあ。」
ペコリ、と奈都は頭を下げた。
「あのっ!この雨だし、せめて駅まで送るよ…。」
自分が信じられないほど緊張している…。
奈都も奈都で意外な申し出に、ドギマギしていた。
「あの!えと。送って頂くなんて悪いです。私、雨に濡れるのも結構、好きなので…。」
「悪い事ないよ!女の子を雨の中、そのまま帰すなんて出来ないし。それなら僕が、濡れて帰るから君が傘を使ってくれたらいいよ。」
「えっ!そんな余計悪いですよ!風邪、引いたら大変です。私は本当に体、丈夫だし!」
「僕も丈夫だよ!なんなら僕も一緒に濡れて帰るよ!」
「望むところですよ!」