jam! 第5話 『寝不足、のち初仕事』-1
――翌日、月曜日、
現在、登校中。
「…ふあぁぁ……っふ…」
いきなり大あくびで失礼。
それもこれも、昨晩久しぶりに現れた千里の相手をしていて寝るのが遅くなったせいだ。
千里のやつが調子に乗って何回も金縛りにかけやがるから、体のあちこちが変な風に痛いし……。
「あの野郎、今度出てきたら覚えとけよ……」
「随分眠そうだなリショー。あれか?前にも話してたイタズラ好きな幽霊の女の子か?」
「そーいうこと。全く、いつまでたっても進歩が無いっつーか……」
「まぁその程度なら可愛いものだろ?それに厳密に言うと女の子だから『野郎』は間違いだな」
「ほっとけ!」
隣からきたツッコミに言い返してみる。
横を歩く八嶋 大希(やしま たいき)はいつも通り、良く言えば余裕のある、悪く言えばヘラヘラとした笑みを崩す事なく、今日もヘラヘラしている。
「や、でも俺も一度その子に会ってみたいものだな」
「タイキに幽霊が見えるようになるまでは無理だよ。それかいっそタイキも幽霊になってみるか?そうすりゃ見えるかもしれないぞ」
「まだ死ぬのは勘弁。俺が死んだら、俺が救えるはずだった人まで救えなくなるからな!」
そうやって無意味に胸を張る。
タイキは僕の『幽霊が見える』という特異体質を知る唯一の友人だ。まぁ二階堂さん達にも知られたので唯一の、とは言えないが。
僕たちは小学校、中学校、高校と一緒の、いわゆる腐れ縁だ。……ちなみに腐れ縁はもう一人いるが、それはここでは省く。
「救う、ねぇ……」
「む。この前もトラックに轢かれそうになったリショーを助けてやったじゃないか?『救急キック』で。」
「あれは轢かれる対象がトラックからお前に変わっただけだアホタイキ!2m近く吹っ飛ばしやがって……」
「細かい事は気にするな。トラックに撥ねられたら怪我じゃ済まなかっただろう?軽いもんさ」
……そういやあれだけ派手に蹴られたのに怪我は無いな。うーむ、謎だ。
「……にしても。お前の発明する自称レスキュー技さ、だんだん威力が高くなってる気がするんだけど…」
「あぁ。まだまだ強くなるべく改良中だ」
「……だいたいあの『救急キック』にしても、別に蹴り飛ばす必要はないよな」
「何を言う。どんな危険な状況が待ち受けているか分からないからこそ、道具に頼らず己の体を鍛えるんじゃないか」
「お前のは手段がアグレッシブ過ぎるんだよ!」
僕が喰らったものだけでも、『救急巴投げ』、『救急フライングクロスチョップ』、『救急キック』、等々。
……そのうちこいつの自称レスキュー技によって死人が出ないか心配だ。
「……ぉや〜ん?そこにいるのはリショーとタイキかな〜?」
と。
後ろの方から聞き慣れた、非常に間の抜けた声がした。
心あたりは一人しかいない。