冷たい情愛9 過去-14
私が彼のマンションに行くことが出来たのも…
彼が、女を先に田舎に帰したからだろう。
花嫁修業して待っていてくれとでも言ったのだろうか…。
神崎は、山本先生にいつも話していたそうだ。
私との、楽しい日々を…。
「あいつは、お前の事が本当に好きだったんだなあ…」
山本先生は、遠い目をして言った。
「先生…何故そんなことを、私に話したんですか?」
私は静かに答えた。
「神崎の名を出した時、お前が(若い頃の思い出)という風な顔をしたら、それ以上話すつもりはなかったんだ…」
私は、山本先生の言葉を、一語一句聞き逃さぬよう、集中した。
「奴の結婚式でな…母親は本当に嬉しそうな顔だったんだ」
私は、会った事のない彼の母親の姿を想った。
「それまではお前の事が本気で好きなら親兄弟を捨てれるだろうとも思ったが…
あの母親の顔を見たら…俺も、あいつの選択は仕方なかったんだなと分かったんだ」
先生は、ゆっくりと話を続けた。
「しかし…お前の中には、まだ奴がいる…それが愛情なのか恨みなのかは分からんが…」
「だからな…」
私は息を飲んだ。
「あいつの本当を、知って欲しいと思ったんだ…」
本当の…
「あいつは…お前の向上心に…賭けたんだ…」
賭けた…
「あの時のあいつは…そうするしか出来なかったんだ」
声が出ない…
「お前には、望む将来を自由に進んで欲しかったんだろうなあ…」
涙が溢れた。
何も言えなかった。
私は幼かった。
何も分からなかった。
18の私には…何もしてあげられなかった。