ハーレム?な少年2-1
リン・ナナミが大貴族のカミラ家で働き始めて、一月ほど過ぎた。
今まで貧民街でやってきた仕事とは全く違うタイプの仕事だったので、初めは戸惑っていたが、元々器用なリンである。
この頃になれば仕事も覚えてきて、大抵のこともこなせるようになっていた。
カミラ家姉妹や使用人のほとんどとだいぶ打ち解けもして(長女と侍従長は微妙)、一見すれば順風満帆に見える生活なのだが、リンはあることができずに大いに苦戦していた。
「リンくん!今日は私が勉強教えてあげるね!」
「何言ってるんです。あなたは自分の勉強課題が残ってるでしょう?リンさんには私がお教えします」
場所はカミラ家の書庫。
下手をすれば都市にある図書館並みの書物をそろえたこの広大な一室では、主人や使用人の限りなく使用することができる部屋となっていた。
そのなかの四人がけ程度のテーブルに陣取っているのは、カミラ家次女のアイリスと三女のカレン、そして二人に挟まれる形で座っているカミラ家唯一の男の使用人、リンである。
リンは生まれてからずっと貧民街で母と暮らしてきた。
貧民街での生活は1日を生き抜くことだけが精一杯で、庶民から上の階級の人間が普通に学ぶ読み書きや計算などを習う暇も余裕もなかった。
しかしカミラ家で働く上で、一般的な教養は必要になってくる。
これからの生活で机上の知識は欠かせないものとなるため、リンに勉強を教えようということが決まったのだ。
そしてその教師役を誰にするのかということなのだが、ここで話が戻る。
「アイ姉様だってまだ家の仕事残ってるじゃない!リン君の世話は任せてよ!」
「あんな雑務すぐに終わります。それより、どうせお教えするなら完璧にした方がいいでしょう。私とカレンではどちらに教養の経験値があるかは明白です」
…こんな感じで、毎回誰がリンに勉強を教えるか揉めているのだった。
ちなみに今ここにいるのはアイリスとカレンの二人だけだが、カミラ家住人に大人気のリンのためとあって、候補者は他にも大勢いた。
だが、その候補者達であるが、まず使用人の女性陣はアイリスとカレンがご主人様権限で強制的に却下。
長女のミレイや侍従長キョウカもリンに教えたかったようだが、元々多忙な身である上に、未だにリンを前にすると素直になれない性格のため、候補に名を挙げることができずじまいだった。
それはともかく。
アイリスとカレンの論争は止まりそうもない。
それもいつものことではあるのだが、間に挟まれていて、且つ、教えを乞う身であるリンは口をだすこともできずに肩身の狭い思いをしていた。
相変わらずこういう状況に耐性がないリンがオロオロしていると、意外な人物がやってきた。
「カレン様、やはりここでしたか」
銀髪の侍従長、キョウカである。
「何、キョウカさん?どうかしたの?」
「何ではありません。もう既にお勉強の時間になってます。他人に教えるのも確かに良い経験となりますが、まずは御自身の勉学に力を入れてください」
「ぶー…今日はいいでしょ?リンくんに勉強教えたいし…」
そう言って、ギュッとリンに抱きつくカレン。
女の子特有の柔らかい肌の感触を感じて、リンは頬を赤く染める。
だが、カレンの抗議は当然聞き入れられなかった。
「だめです。日々の継続こそが力となるのですから。さあ、行きましょう」
半ば引きずるようにしてカレンを連れていく。
キョウカの言い分に理があるため、カレンもおとなしく従わざるおえなかった。
「う〜…アイ姉様!リンくんに変なことしたらしょーちしないからね!」
そんな言葉もどこ吹く風。いつも無表情のアイリスには珍しく笑顔を作り、手を振りながらカレンを見送った。
そして、リンとまったく会話をしていないことでやや名残惜しそうなキョウカと不満タラタラの顔をしたカレンは書庫を後にした。