A FootPoint〜想々-1
稲妻が地上に轟き、わたしは導かれる様にそのお店へと入っていった。
ココに来たのは何年振りだろう?
店内は、ほぼ満席の状態で私は待ち合い様の椅子に腰をかけた。
相変らず年代層も幅広く、老若男女が楽しそうにお喋りをしていた。
わたしも友達とかと待ち合わせする時は、よくココを利用していた一人だ。
お店の雰囲気と店長サンの絶妙なキャラがダイスキだった。
暫くすると…2、3分くらいだけど…一人の男性が足早にやって来た。
「いらっしゃいませ」
接待に応じてくれたのはココの店長サンだった。
わたしが通い詰めていた…学生時代と全く変わらない店長サン。
…彼は一体幾つなのだろうか?
そんな疑問を抱きながら私は一瞬だけ、すぐに学生気分に浸ってしまった。
今はれっきとした社会人なのに…
「一名様でしょうか?」
「はっハイ...!!」
わたしは我に返り、思わずマジマジと店長サンをマジマジと見てしまった。
「只今店内込み合っていておりまして…相席になってしまいますが…」
「あっ全然、構いませんよ」
「そうですか…では2階席の窓際へどうぞ」
わたしは店長サンの後に続き、螺旋階段を昇り案内された席へと向った。
店長サンが相席の件をそこのテーブルに座っていたサラリーマン風の男性に説明すると、
彼の方も快くOKしてくれたようだ。
店長サンはわたしを手招きで呼び寄せてくれた。
「あっ…今、鞄どかしますね…」
わたしはその声にどこか懐かしさを感じたが気のせいだと思い、
彼はよいしょと言いながら自分の席の下へ革の鞄を置いた。
どうぞ、と言われてやっと声の主が判り、回れ右をしてお店を出ようとさえ思った。
「…雅黄?」
思わず呟いてしまった彼の名前、無論呼ばれた本人も私に気付き…
やぁと片手を上げた。
…参ったなぁと内心では溜息をついたけど、わたしは驚いた表情のまま席へ着いた。
まさか本人目の前に『逢いたくなかった人NO.1』とは言えず…。
…彼は、わたしの高校時代付き合っていた彼氏だった。
「久し振り…こんなトコで逢うとは思わなかったよ」
わたしも…と本心を伝えると、店長サンがやってきた。
「こちらホットココアになります」
コトっとカップを置き、クッキーがのせられた小皿を置いた。
「有難う御座います。でも…クッキーは…」
「私からのサービスです。お口に合わなければ残して構いませんから」
それでは、と言って店長サンはまた螺旋階段を降りて行った。
「流石店長…常連だったわたしの頼む飲み物覚えてたんだ…」
「…?もう何年もココに来てないのか??」
わたしはそうよ、と言ってホット・ココアに口をつけた。
つられる様に雅黄もブラックコーヒーをすすっていた。
「そう言えば…雅黄は大学院には進まなかったの?」
「ああ。何だか行く気無くしてな…就職先はまたこっちにしたんだ」
そう…何だか複雑な心境になってきたな〜と思いつつ、
わたしはサービスクッキーをひとつ摘んだ。
「雅黄もどうぞ」
「じゃ、遠慮無く…」
大きな手が小皿に伸び、彼の口へと運ばれた。
「「相変らず美味しいよね」」
何故か同じ台詞を吐いてしまい、お互い笑った。
ただわたしは…乾いた営業スマイルだった…。
窓の外に視線を移すと、駅前を彩る傘を眺めていた。
まだ外の雨は酷い様子。
「何だか変わらないな…ココ」
急にどうしたの?とわたしは彼に聞いた。
いやなんとなくね、と少し照れた様子でまた答えてくれた。
「でも…あれから7年も経つんだな…覚えてる?ココで僕ら別れたの」
彼の台詞にわたしはワザと無反応で、カップのココアを見つめた。
何を今更…振ったのは貴方なのに。
…思い出したくない古傷が一瞬のうちに開いていった。
『…友達に戻ろう…』
何の前触れも無く言われた一言…突然の出来事に私は戸惑ったけど…
最終的にわたしたちは友達に戻った…。
ただ、この後に及んで、
どうしてそうズバズバ酷い台詞を浴びせられなきゃいけないのだろう?
わたしはウンザリしながら…そうね、とだけ答えた。
まだ昔の殻に閉じ篭ってる自分を、馬鹿だと思いながら…