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――ちゅるるるぅぅ。
その日の僕を目覚めさせたのは、小鳥のさえずりだとか、
朝方にクーラーが切れたことによる寝苦しさだとか、そう言ったいわゆる普遍的な理
由とは異なっていた。
鼓膜を妖しく撫でる湿った音、そして脳を支配する快感のシグナル。
顎を引いてふと両足の方に目をやると、僕が愛用しているダークブラウンのシックな
タオルケットの一部分、
下半身の辺りが不自然に膨らみ(人ひとり分)、何やらモゾモゾと上下に反復運動を
繰り返している。
「…………何やってるの?」
「ふぇはひふぃふぁっへるふぇひょ」
わからない。
「ふぇはひふぃふぁっへるふぇひょ!!!!!!」
何でもないかのように僕のモノを舐め続ける彼女は、これでどうだと言わんばかりに
大きな声でそう叫ぶ。
……いや、ボリュームの問題じゃなくて。
「…………ぷはっ……だぁかぁらぁ、フェラに決まってるってさっきから言ってるで
しょーが」
このままではいつまで経っても伝わらないと判断したのか(遅い)、
ようやくそこで夏希は口に含んでいたモノを放し、めんどくさそうにそう答えた。
可愛い恋人に何度もフェラフェラ言わせるな、僕の固くなったモノを握りしめたまま
夏希はそんなことを言う。
正確に言えば、まともに「フェラ」と口にしたのは一度きりではあるが、
そんなことは現在僕が置かれている状況から見れば、使用済みのトイレットペーパー
と一緒に流してしまっても良いくらい些末な問題である。
――どこから突っ込んだらいいのだろう。
ゆっくりと起き上がり、僕は文字通り頭を抱えてしまう。
その間も夏希はぴちゃぴちゃと淫美な音を部屋に響かせながら、愛おしそうに僕のモ
ノを丹念に舐め上げている。
「どうやって入ったの?」
とりあえず懸命に状況を把握しようと問いかける。
返答の度に止まる動きが、少しもどかしくもあったが、今はそんな贅沢を言っている
場合ではない。
「あのね、おじさんが入れてくれたの。シン君に呼ばれて来ましたって言ったら」
……ふむ。
「僕、夏希のこと呼んだっけ?」
「ううん、呼んでない。……安心して、シン君が呼んだコトを忘れちゃってるわけ
じゃないよ」
安心すべきポイントはそこではない。
「そう。じゃあ、なんでそれが今こうやって、……そんなコトしてるワケ?」
「だって、昨日『どんなことにも付き合ってあげる』って言ったじゃん」
昨日、昨日、昨日、昨日……。
寝起きであるコトと、下半身を容赦なく攻め立てる快感の波のWパンチのせいで、
うすらぼんやりとしか働かない脳を必死にフル回転させて、夏希の言う【昨日】とや
らのセリフを記憶の海の中に探る。
――――確かに、言ったな。
でもそれは――
「でもそれは今日が【夏希たち】の誕生日だったからであって、それにこういう意味
で言ったんじゃ――」
「もぅ、さっきからシン君ぐちぐちうるさいよぅ……、えいっ」
僕の言葉を途中で遮って、夏希は僕をベッドに勢い良く押し倒した。
安物のベッドがギシィと痛々しく悲鳴をあげる。
なかなか揺れの収まらないベッドの上、夏希は夕立が降り出す直前の空みたいな壊れ
そうな表情で、僕の双眸をじっと捉えている。