コンフリクト T-11
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翌日。
坂巻工業は、いつもの不良達が作る喧騒も鳴りを潜め、どこか暗い影を落としていた。
坂巻工の谷口が白嵐の織戸に宣戦布告し、西軍と東軍の抗争が幕を開けた。
その先駆けとして白嵐に送り込まれた犬山真代を、織戸翔が秒殺したという事実は瞬く間に広がり、西軍の士気に少なからず影響を及ぼした。そこには、織戸翔が女だったいう事も当然絡んではいた。
ここ坂巻工にも、その影響を誰よりも受けている者が1人……谷口祥である。
「それで、犬山さんは相当落ち込んでるらしくて……」
「そうか……」
教室内で、先日の犬山の件について部下に報告を受ける谷口だったが、その反応は心ここにあらず、といった感じである。
「あの、谷口さん……?」
「そうか……」
部下の問い掛けにも全く答えようとせず、同じ言葉を繰り返し呟く谷口。廃人になってしまったのではないかと周りが心配する程で、翔へ宣戦布告した人物とは全くの別人に見える。
「織戸翔……か……」
谷口は椅子の背もたれに身体を預け、天井へと視線を遣る。倒すべき敵の名を呟きながら。
「可愛過ぎだろ、ありゃ……」
谷口は目を覆うように手を置き、誰にも聞こえぬ小さな声で、思いの丈を口にした。
そして暫しの沈黙の後、谷口は勢い良く立ち上がる。
その目は闘気に満ち、握られた両の拳は、力感に溢れ全てを打ち砕かんと震えていた。
谷口の豹変振りに、周りの人間も思わず息を飲む。
「犬山を呼べや!」
怒りに燃える谷口の獰猛な叫びが、坂巻工に響き渡った──
「へくちっ!」
「頭、風邪ですか?」
「いや、何でもない……」