out side #01〜始まりは図書室の中〜-1
「那弥〜? 先生が探してたよ」
「え? 先生って? 誰先生?」
「学ちゃん」
【学ちゃん】とは。
那弥の学校で人気の教師。末木学(すえき まなぶ)のことだ。
女子生徒からの人気がすごく、殆どの女子生徒は彼の事を好いている。
人気の秘訣は、誰にでも一に笑顔、二に笑顔という、とにかく笑顔が素敵で気さくなところだろう。
高校二年生である相沢那弥は、そんな末木の事をいまひとつうさんくさい等と思っていた。
あの笑顔の奥......何を考えているのかいまひとつ掴めない。
「那弥、図書室の奥にさ、資料室ってあるじゃん?」
「資料室? そんなのあったっけ?」
那弥はきょとんとした様子で友人に尋ね返す。
「なんか、貴重な本とか置いてあるってところ。分厚い本がいっぱいある......―」
「ああ! あそこね。何? そこに行けばいいの?」
「そうそう。那弥、生徒会に入ったから頼りにされてんだよ〜、い〜なぁ〜」
「じゃ、代わってあげよっか? 私末木先生いまひとつ苦手なんだよね〜......」
「うっわ。出た! 那弥の贅沢発言!
ホラ、そんな事言ってないで早く行ってきた方がいいよ!
学ちゃん、相当忙しそうにしてたから!」
友人は那弥の背中をポンッと押すと、手をヒラヒラと振り、去っていった。
* * *
図書室に入ると、放課後のグラウンドの騒がしさとは隔離された空間が広がった。
那弥はさらに奥に歩いていき、一つの小さな扉の前に立った。
その扉に向かって、軽く2,3度ノックする。
「先生。相沢です、用事って何ですか?」
扉の前に立ったまま那弥は反応を待つ。
「開いてるから。入ってきて」
「はーい。失礼します」
小さな音を立てて、扉を開けると、更に図書室にある本棚よりも高い本棚。
その棚に所狭しと、分厚い何だか難しそうな本が並んでいた。
「うわ......すごいですね......私初めて此処入りました...」
周りをキョロキョロ見渡しながら思わず独り言を呟く。
末木は何やら、すこし奥まった所にある大きめの机の上に数冊の本を広げ、熱心に調べ物の最中のようだ。
「......まぁここは、普段ここの教師が調べ物するために使用する図書室だからね」
末木は本に目をやるのをやめ、那弥の方を振り返った。