結界対者 第四章-17
「あれ、さっき、話しませんでしたっけ?」
「ごめん、だとしたら、もう一回!」
「初め、バカ本は俺に、間宮が授業中に消えたと言ったんですよ。でも、クラスの生徒達は、朝のホームルームが終わった後に出て行ったって……」
「どういう事…… まさか!」
「え?」
「イクト君! 今すぐ、その山本先生の所に行きなさい!そして、あの子が消えた前後に、なにか変わった事が無かったか、もう一度訊いてみて!」
「ええっ?」
「おそらく、山本先生の言っている事は正しいわ!」
「そんな……」
「説明は後! とにかくお願い!」
一体、どういう事だ?
サオリさんは、俺が応える間もなく、そのまま電話を切ってしまった。
仕方が無いから、このままバカ元を捜そうと歩き始める。
やれやれ、間宮の次はバカ本かよ。
しかし、今の時間は授業中だ。
散々サボった挙げ句に、授業中に職員室を訪れる程、俺はバカじゃない。
時計を見ると、もう次の休み時間が、すぐそこまで近付いていた。廊下の窓から不意に見上げた空は、蒼く澄みわたっている。
やれやれ、だな。
俺は、そいつに溜め息を浮かべながら、暫くの間をやりすごす事にした。
―8―
チャイムが鳴るのを待って訪れた職員室は、何故か騒然としていた。
「警察には連絡したのか!?」
「生徒達には何て伝えれば……」
「なるべく、混乱は避けましょう、ね?」
中に居る教師達の口々から、そんな言葉が飛び交い、俺は思わずそれに、ドアをノックするのを躊躇う。
おい、警察って…… まさか、間宮に何かあった訳じゃないよな?
しかし、そうしているうちに、ドアは向こう側から開けられて
「な、なんだ、君は」
見慣れない、バカ本よりも少し若い様な教師に、驚きの表情を向けられてしまった。
に、しても、コイツ、自分の学校の生徒を前にして「なんだ君は」は随分だ。
「すいません、二年の柊ですが、山本先生はいらっしゃいますか?」
ワザと声を高めに、投げつける様に、言ってやる。
すると目の前のそいつは、僅かに息を飲みながら固まった後、突然うつむきながら消え入りそうな声で
「……たんだ」
「え?」
「先ほど、亡くなったんだ」
振り絞る様に呟いた。
「そんな、馬鹿な!」
「いや、柊君だったな。この事に関しては、後でちゃんと話すから、まだ騒ぎにはしないで欲しい、頼む」
しかし、その教師の深々と下げられた頭は、ものの数秒で意味を無くしてしまった。
パトカーのサイレンの音が近付く、かと思えば学校のすぐ側で激しく鳴動を繰り返す。
それと同時に、一階にある職員室の前に居ても判る程に、校舎の中の全てがどよめき始める。