結界対者 第四章-15
さて、どうしたものか。
正直なところ、実は間宮が授業を抜け出していて、放課後にいつもの場所にヒョッコリと現れる、という結末が一番望ましい。
たとえば、
「バカ本の鼻を開かしてやった」
とか、得意気に笑いながら。
しかし、バカ本の様子から、そんな簡単には済まされ無い事の様な気もする。
俺はポケットから携帯を取り出すと、間宮の番号を呼び出し、発信ボタンを押そうとして……
やっぱりやめた。
そういえば、あいつはいつでも、授業をサボる時も含め、学校では携帯を鞄に入れっぱなしなのだ。
とりあえず、屋上か学食か……
そんな感じで居場所をイメージしながら、とりあえず間宮を探し始める前に、彼女のクラスに向かってみる事にする。春日さんあたりなら、おそらく何か知っていて、種明かし的に間宮の居場所を教えてくれそうな気がしたから。
休み時間は、既に終わろうとしていて、間宮の教室に近付くにつれ、生徒達がテキストを抱えながら、何処か他の実習室か何かに移動しようとしているのが見えた。
呼び出す手間が省けるか?
出来ればこのまま、簡単に終らせたい。なんでもいいから、ごく平凡な答えが欲しい。
やがて俺は、教室から次々に流れ出る人並みの中に、親しげに友人らしき人物と笑いながら歩く春日さんを見付けた。慌てて呼び止め、間宮を見なかったかと手短に尋ねる。
しかし、春日さんとその友達らしき人物から返された言葉は、予想外の内容だった。
「セリ? 朝のホームルームが終わったら、教室から出ていったみたいだけど…… ねぇ?」
「うん、まあ、間宮さんは、いつもあんな感じだからさ」
確か、バカ本は、授業中に間宮が居なくなったと言った。
しかし、彼女達の話から察するに、バカ本のそれは単なる勘違いで、間宮は元々朝から居なかったという事になる…… か。
「いや、すまない、バカ本の奴が妙な事を言いやがるからさ、つい心配になっちまって」
思わず苦笑いを浮かべたその時…… だ。
春日さんの表情が一瞬固く、というよりは凍る様に冷たく俺の視界に映った。
俺、何かマズい事でも言っちまったか……?
「柊君、山本先生が、何か言ってたの?」
すぐに、いつもの、優しげな表情に戻る。
しかし、先ほどの瞬間が、あまりにも強烈過ぎたせいか、頭にこびりついて離れない。
「い、いや、何でもない! とにかく、忙しいところに悪かったな」
思わず慌てて、その場を離れたのは、春日さんの見せた表情の為以外の何者でもない。
さっきの、何だったんだ、アレ。
それからも校舎中を色々と探し回ったものの、結局間宮の姿は何処にも無かった。
気が付くと授業は既に始まっていて、誰も居ない校舎に取り残された様な、ふとそんな感覚を得る。
俺は、今朝からの間宮の様子をもう一度思い出しながら、静かに歩き
間宮の奴、もしかしたら……
微かに思い付いて、思わず足を止めた。