結界対者 第四章-14
それから程なくして、事件は起きた。
学校へ着いた、その暫く後の二時間目の休み時間の事だ。
特に授業の予定の無い筈のバカ元が、教室のドア越しに神妙な面持ちで俺に視線を向けた後、小さく手招きをする。
俺は、気味が悪いなと思いながらも、仕方なく席を立ちバカ元の方へと向かっていった。
「柊、あのな」
「何です?」
バカ元は気不味そうに視線を落としながら
「間宮が居なくなっちまったんだが、お前、何か知らないか?」
モジモジと小声で告げた。
「え? 居なくなったって…… 」
元々間宮は、興味の無い授業には出ない主義で、そんな時は屋上とかで暇を潰していた筈だから
「サボってるんじゃなくて、ですか?」
改めて聴いてみる。
「いや、違うんだ」
「え?」
「あのな、先程まで、俺の授業だったんだ。間宮は確かに席に座っていた。しかし、俺が黒板に少し書いて、それからすぐに振り返った時には間宮は居なかったんだ」
「バカな!」
「教室から出た気配もなかった、クラスの生徒達も特に騒がなかった。でも……」
柄にもなく、バカ元が蒼白の面持ちを向け、俺は思わず唾を飲み込む。
「間宮は、消えちまっていたんだよ」
―7―
その、バカ本の言葉に俺は、思わず楽箱での樋山の事を思い浮かべてしまった。そして、そんなのは冗談じゃない、と思い
「先生、何かの勘違いじゃないんですか?」
なにくわぬ表情で、平静を装いながら言葉を返す。
「いや、しかしだな」
「おそらく、目の錯覚ですよ、それに……」
「ん?」
「さっき、間宮からメールを貰いましたから」
こいつはデマカセだ。もし間宮が本当に消えたとして、その原因が俺達が対者である事に関係するものなのであるとしたら、バカ本には一旦納得して貰うしかあるまい。
「本当か? 柊」
「ええ、大方、巧く抜け出して、どこかでサボっていたんでしょう」
「なんだ、まったく、間宮の奴」
バカ本は口をへの字に曲げながら腕組みをすると、
「一度、間宮とは向き合って話しをせねばならん! 大体、アレだ、アイツは授業をナメきっとる!」
鼻息を荒げながら、廊下に吐き棄てた。
そして、更に
「お前からも、よく言っておいてくれ、わかったな?」
と付け加えると、踵を返し、ノシノシと無駄にデカい背中を揺すりながら去っていく。
まあ、言われたところで、そいつは無理な話だ。
俺だって、本当は間宮がどうしちまったかなんて、解らないんだから。