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多分、救いのない話。
【家族 その他小説】

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多分、救いのない話。-2--2

「ありゃ。先生、早かったですねぇ」
 お母さんまだ帰ってきてないですよぉと神栖独特のスローな口調が葉月の緊張を解くことは……なかった。何だこの家。
「お母さんが結婚した時にここに来たらしいですから」
 もう十五年ぐらいになるらしいんですねぇと呑気な口調で呑気な事を言っている。いやそんなことに驚いてるんじゃなくて。
「……広っ……」
 思わず口に出してしまった。この辺の家は高級住宅街と呼ばれているので葉月じゃ一生働いても住めないような家ばかりだが、それらの家と比較してもまだでかい。一言で言うと、スネオの家みたい。あんな家、日本の住宅事情で有り得るはずがないあれはアニメなんだと小さい頃言い聞かされてきた。普通にウサギ小屋に住んで いる(現在進行形で)葉月からするととてつもなく規格外だった。
 ぽかんと阿呆のように家(屋敷のほうが正しいかもしれない)を見ている葉月に神栖は、
「あははは。でも、親子二人なんでこんなに広くなくてもよかったなあっていつもお母さんは言ってます。お母さんがいない時は私一人です」
「神栖のお父さんは…」
「小さい頃死んじゃいました。私、全然覚えてないですけど、でも覚えてないから逆に平気ですねぇ」
「…………」
 強がり、笑って済ませているが、隠し切れない寂しさをその言葉から感じ取る。葉月も今の神栖ぐらいの時に母親を亡くし、片親になった。家に帰ってきた時、ただいまを言ってくれる人がいない寂しさは、葉月もよく知っている。
 そうだ。家が金持ちだとか親が有名人だとか、そんなことは寂しさには関係ない。人間はそのぐらいには、皆同じだ。区別をつける必要は、違いを見つける必要は、どこにもない。
 少しでも世の中の“悪意”から守り、成長を見守る。それが葉月の教師としての仕事であり、生きる目標だ。
 子供を悪意から守るのは、大人の役目だ。
「おじゃまします」
「どうぞー」
 神栖は笑顔で葉月を迎え入れる。屈託のない笑顔。もしこの笑顔を傷つけようとする奴がいるのならば。
 傷つける奴らから絶対守ってみせる。そのために、俺は教師になった。


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