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「集結する者たち」
【ファンタジー その他小説】

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「集結する者たち其の一」-4

「分かるよ、あなたの気持ち。……ボクも連れられてこの世界に来たんだ。そして、帰りたいと思ってる」
丸いゾンビは真剣に……包帯を解いた。その下から現れる白い毛で覆われた身体。血は少しも見当たらない。
「怪我は……まさか?」
裕之はしかし、少しだけ声を荒げただけだった。あんな大怪我をしていた身体が、この短時間に完治したというのに、それ以上のリアクションは見られない。いや、本当は十分に驚いているのだ。ただ反応が薄いだけなのだ。
「だから言ったろう?病院に行く必要がない、ってね」
ゾンビ……丸い生物は声のトーンを高くし、続けた。
「申し遅れた。ボクは『ノトヒ』のランド。『ペルスINソルト』の世界からやってきた」
ランドと名乗ったその丸い生物は、胸(?)を誇らしげに張った。
ランド、という名前ならば裕之にも理解できたのだ。ただし、それ以外はまったく理解できてはいなかった。
『ノトヒ』ってなんだ?『ペルスINソルト』の世界ってなんだよ?
「分からない事だらけじゃないか……」
思わず呟いていた。ランドは敏感に反応する。
「なにが?」
一息、ゆっくりと溜め息にも近い呼吸をした裕之は、
「お前の自己紹介がさっぱり分からないってんだよ。ノトヒ?ペルスINソルト?専門用語を使うな」
怪訝そうな顔をしているランドを見ながら言った。ランドは分からないのか、とその問いに答えてやる。
「さっきも言っただろ?この世界に連れて来られたってさ。……つまりはだよ」
「ああ」
一つ、息をゆっくりと吐く。それからランドは続けた。
「ボクは『ペルスINソルト』っていう、この世界とは別の世界から来たんだって事だよ。分かった?」
「…………」
もうどんな反応を返せばいいのか、裕之には分からなかった。今はそれを考えている。……答え、なし。
(やはり人間だ、俺だって。非常識な事は非常識な事。それに尽きるな)
ベッドに向かいながら裕之は思った。寝よう、と。
「……信じない、って事?さっきまで信じかけてたのに」
ランドは責めるような口調で裕之に言った。横目でこちらを見ている。丸い身体は非常識。こんな存在はない。
「さっきから訳分かんないんだよ。新しい世界?お前はどこの谷川だ?流だ?……俺はもう寝る。非常識な事はこりごりだ」
「…………」
それ以上、ランドは口を開かなかった。垂れた嘴がぴくん、と跳ねたかと思うと、
「っ……」
その羽毛のようなものでびっしりと覆われた自分の腕らしき部分で窓を開け、豪雨の中を飛びさっていった。そう、飛びさっていったのだ。
「あいつ、飛べたのか。そういやぁ、鳥みたいだったな。……まあいいや。寝よう」



こうして裕之の日常は崩れ去る。本人に自覚はない。故に彼は、明日も日常が来る、そう思っている。
それがただ、静かに招いたから……。


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