ゆきのした。-9
そういや昔、どこかで聞いた覚えがある。
《夢の中で「これは夢だ!」と気づいた時、自発的に起きれる様になる》
ひょっとすると嘘かもしれない。 だけど今はやるしかないのだ。
…自発的に? どうやって?
それに、よくよく考えたら今現在の僕は、体の五感を失っていない。
姉ちゃんの感触がして、姉ちゃんの匂いがして、姉ちゃん……!?
やっとわかった。
これは夢じゃない。
クスクスと小さな笑い声が聴こえるから、もうわかってしまった。
「………どうせからかってたんだろ」
「…そ、そんなこと……く…くく…」
「嘘つけ」
頭を軽く叩いてやった。
コンビニ弁当の蓋を開け、割り箸を取る。
僕の弁当は好物のハンバーグ弁当だ。
姉ちゃんの弁当は…見た瞬間に小声で「うげ」って言ってたから、大凡の察しは付く。
父さんの細やかな愛情だろう。 姉ちゃんは幸せものだなあ。
「わざわざなんでこんなん…お父さんひどいよー……」
「お、魚の切り身…姉ちゃんの大好物だっけ?」
「…嫌味?」
「いやいや」
「透のがいい…替えて」
「はいはい早く食べようね。 いただきまーす」
白米を適量口に入れ、咀嚼する。 うん、普通。
「ここでお姉ちゃん法則発動。 第一条、お姉ちゃんが望むことあらば、弟はなんでも…」
とかなんとか言ってるけど、無視。
「……そっちのからあげ食べてあげるからさ、せめてこのポテトサラダ食べてー…」
「選り好みいけない……じゃあ…ハンバーグあげようか?」
と言いつつ薄緑色の物体を姉ちゃんの弁当に移そうとする僕。
すると姉ちゃんはもの凄い早さで弁当の両端を掴み、同時に手を引かせた。