ゆきのした。-18
「…………ただいまー……」
…父さんだ!
今は時間など気にしていられない。 一刻も早く父さんを出迎えてやろう、
…姉ちゃんよりも早くに。
そうだ、姉ちゃんは……まだ気持ち良さそうに眠っていた。 無理に
起こさなくてもいいか。
特に大した準備もできなかったけど、心を込めて労おう。 僕は、僕なりに
そう考えていたんだ。
思いが無駄になるなんて、思う訳がなかった。
玄関付近の所で、見るからに若そうな女性が一人、倒れていた。
そして父さんが、近くでその女性をさてどうしたものかと考えている様子で佇んでいた。
「……だ………誰? その人…」
父さんは僕に気付くなり「ああ、起きてたのか」と驚嘆の意を表し、僕の問いに答えた。
「同僚の鈴谷さんと言ってね。 送別会が終わって家まで送ろうと一緒に歩いてたんだが…どうにも酒が回って、酔っぱらって疲れちゃったみたいで…」
そこから先も聞くつもりはなかった。 言い訳を聞いてるみたいで…苦しかったから。
「送ってあげたら?」
だから遮った。
「え?」
「車を取りに帰ってきたんでしょ? その…鈴谷さんを送る為に」
「あ…ああ、そうだな。 じゃ、戸締まりよろしくな」
「うん。 行ってらっしゃい」
「あと…早めに寝るんだぞ」
「………うん」
─────バタン
……さて。
うやむやとしたこの気持ちは、どこに向けて放出すればいいのか……
その時の僕は必死に悩んだ。
別に誰が悪いって訳じゃない、ちょっと空しくなっただけ。 ケーキとプレゼントが
無かったのは悲しかったけれども。
……でも…僕は『子供』だった。
この日から父さんを見る目が変わり、
そして時が経つに連れて、
父さんは" 旅立つ "ことになる。