冷たい情愛8 錯覚な交わり-5
「う…ん…うう…」
微かに彼の声が聞こえた後、激しい攻めが嘘のように彼は私を抱きしめたまま体を震わせた。
私の性器は、残された感覚で彼の血流を感じた。
生暖かい感覚…
彼も十分に快楽を感じきった証拠が、私の中に注がれたのかもしれない。
私はゆっくり目を開けた。
そこには、息を乱し…私の上に乗っている…遠藤さんがいた。
でも私は…それが遠藤さんであるかどうか…不安になった。
浴室の熱気と蒸気で朦朧とする意識の中で、私は誰を見ているのだろう。
本当に…私と交わっていたのは、彼なのだろうか。
私は誰と交わっていたのだろうか…。
息の整った彼は、私を抱き起こし熱いシャワーで体を暖めてくれた。
相変わらずそこには…静かできれいな一重の目がある。
苦しいほど私を抱きしめたその手は、私の体を静かに撫でている。
怖かった…
こうやって体を離したら…またいなくなってしまう…
私は急に彼にしがみ付いた。
でも本当は…何にしがみ付いたのだろう?
彼は…抱きしめることも突き放すこともしなかった。
ただただ…裸でしがみ付く私を、湯で洗い流すため…
優しく優しく撫でてくれるだけだった。
・・・・・・・・
彼は浴室から先にあがり、私のために新しい寝衣を用意してくれた。
しかし、昨夜置いていった私のものではなくて彼の大きなTシャツと短パン。
あまりにもサイズが合わず、私は自分の姿を見て笑ってしまった。
「どうしました?」
遠藤さんは少し不思議そうに私に尋ねた。
「だって、大きいから…私が子どもみたい」
「すみません…昨日のものは洗う時間が無くて」
彼は真面目に謝っている。
「大丈夫です…なんだか高校生の頃、大きめのジャージと短パンを着てたのを思いだしました」
あの頃、友人たちとわざと大きめのジャージをきて、騒ぎながら校庭でバトミントンをしたのを思い出した。
ふと床の隅に視線が行った。
昨日転がり落ちた…小さなペンギンのぬいぐるみがあった。
私はかがみこんで、それを手にした。
手のひらに簡単に乗ってしまうそれ。
昨日の彼の言葉を思い出した。…大切な人から貰ったもの…だと言っていた。