ヒトナツB-7
「ぜぇぜぇぜぇ」
「はぁはぁはぁ」
駅のホームには、電車が来るまでへたりこむ二人がいた。
「はっ、なんでっ、お前っそんな、元気なんだよっ」
「あはっ、アメリカ育ちをなめてもらっては、困るわ」
「……関係ない、だろ」
「はぁ、はぁ、あはは」
「お前なあ、酔っ払ってたんじゃねー、のかよ、はぁっはぁっ」
「なんだか気付いたら覚めてたわ」
「んなわけ、あるか…」
「あ、電車」
いつの間にか、すっかり息を整えた渚は、身軽な動きで立ち上がる。
「はぁっ、はあ、待てよ」
「しょうがないわね、はい、手」
「すまん」
女に手を貸してもらうとは……不服。
「ってうわっ!」
渚は強く俺の腕を引いた。
俺は全く予想だにしてなかったので、簡単に引っ張られた。
「……」
そして俺は、不可抗力で渚の胸に飛び込む結果に。
「その、なんだ」
「うん」
「……重ね重ねすまん」
ゆっくりと体を離す。
「……ほら、乗るわよ」
「……ああ」
本当に不可抗力だった。
不可抗力だったのに。
俺の胸は、たしかに熱くなっていた。
***
私は今、信じられない光景を目にした。
健吾さんが、女の人に抱き付いていた。
入院しているお母さんのお見舞いから帰る途中のことだった。
もう何度目かも忘れたけれど、私が降りたこともない駅に電車が停車しようと減速していたときだった。
「!」
はっきりと見えた。
ホームで抱き合っている健吾さんと、後ろ姿しか見えない女性が。
見間違いかもしれないと、最初は我を疑った。
けど、すぐに自分が間違ってはいないという結論に至った。
私が健吾さんの顔を見間違えるはずはない、と。
じゃあ何故?
健吾さんは誰と抱き合っていたの?
健吾さんは私と付き合っているんじゃないの?
胸が苦しくてどうしようもなくなる。
確かめないと。
でも、言い出す勇気はなかった。
電車はゆっくりと動きだす。
きっと健吾さんはこの電車に乗ったと思う。
健吾さんの地元で一緒に降りて待ち伏せてみようか。
今すぐ健吾さんのいる車両まで行ってみようか。
私の頭の中では、いろいろなことが駆け巡っていた。