飃の啼く…第15章-7
「やーい!親殺し!」
「呪われた混じり者〜っ!」
外から、子供たちの罵声が聞こえた。
「取り消せ!馬鹿野郎!!何にも知らないくせに!」
怒りに震える声。この声は、間違いない。
「お前の親父が、へんてこな狐なんか娶って、おかしな術をかけるからこの村がおかしくなるんだ!」
「狐の女は意地汚いって、父ちゃんが言ってたぞ!」
子供ならではの、容赦ない中傷。家の中の空気が、一気に気まずくなる。
「てめえ〜!父さんと母さんの悪口をもう一言でも言ってみろ…殺すぞ!」
キャアキャアとはやし立てる子供たち。
何人かの女の子が、彼をかばって「やめなよ!」と言うのも聞こえる。でもその声は控えめで、誰も耳を貸さなかった。
悲鳴やら、怒った声やらが一気に沸き起こる。ついに彼は、うなり声を上げてそのうちの一人に突っ込んで行ったようだ。
「あなたの家も大変だったでしょう…異種間の婚礼というのは、なかなかに大変なものだ。」
そう言って、お父さんが立ち上がる。困ったような微笑で、やれやれと首を振った。
戸口に立って、ぴしゃっ!と引き戸を開ける。とたんに子供たちの声は止み、駆け足でその場を立ち去る足音がした。
「いいか、飃。」
お父さんの声が聞こえる。
「今度身内のことを悪く言われたら―父さんと、お前の悪口はかまわん、母さんの悪口だけは…まあ一発くらいならいいが―相手を見返してやるために、その拳を振るえよ。だがいいか。決して殺すな。どんなに相手がひどいことを言っても、だ。」
「でも父さん…」
「殺せば、おまえは悪口を言った奴以下の存在に成り下がるんだ。それでもいいのか?それで弟がお前の悪口を聞かされても良いのか?」
「…いやだ。」
「ならばよし!さあ、遊んで来い!」
油良はなんと言ってたっけ?私と彼が将来会えないようにするって言ってた…もしかして、ここであの子が殺されでもしたら…!
一人にするのは危ない。私はまた起き上がって、
「す、すみません。だいぶ具合が良くなったようなので、この村を見て回りたくて…」
お母さんは、にっこり笑って
「どうぞ、いってらっしゃい。」
と言ってくれた。
私はお辞儀をすると、戸口のところでお父さんとすれ違った。
「い、い、いってきます!」
口ごもりながら言って、いそいで
…飃の後を追いかけた。