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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第15章-22

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懐かしい、木の柄の温かみ。しっかりと握る。もう離さないように。

―おかえり、さくら…!



「ただいま。」



すると、蛇は私を締め付け、九重を持っていた右手もがんじがらめにしてきた。

「っひひ!これでそいつは使えまい!さて犬!交換条件だ…」



腕をへし折られそうな圧力。でも、なぜかあきらめる気は起こらなかった。だって、すぐそこに飃がいる。私を見つめてる。わたしは、もう一度あの腕まで帰らなきゃ。

九重が、そんな思いに呼応するように語り掛けてくる。

―さくら。行ってもいい?



お行き、九重。自由に…

「舞え!!」



そのとたん、九重の刃にはぴしぴしと亀裂が走った。何もしていないのに、もう根元まで…そして、刃は散った。

その姿は、まるで花びら。

九重に香る、八重桜の花弁のよう。



蛇は、悲鳴を上げる暇もなかった。九重は矢のように、四方八方からそいつの身体を貫いたから。急に、私を閉じ込めていた尾の力が緩み…私の体ごと地面にたたきつけられそうになる。



一瞬後、地面にぶち当たっているはずの私は、飃に抱きとめられていた。九重は、再び私の持つ柄の穂先に集まってくっついた。

そう…おかえり、おかえり…

これで全てが元どおり…。



油良さんは、もう悪意を持ったものが過去を乱すことが無いように、北海道から氷雨を読んで、過去へゆくことができる沼を永遠に凍りつかせた。二人にお世話になったお礼を言って、またあの不思議な鏡で、家の洗面所まで送ってもらった。今は全ての記憶がはっきりしている。そして、今まで以上にわたしは飃の妻、飃のさくらだった。

洗面所に立ち尽くしたまま、しばらく二人で抱き合っていた。今だからわかる、別離の恐怖。どちらともなく、深いため息をつく。

「逢いたかった…。」

飃のかおりを、肺いっぱい吸い込む。

「己もだ…。」

そして、小さな飃のことを思い出した。やんちゃで、負けず嫌いで、ちょっぴり泣き虫な、あの素敵な少年のこと。そして、微笑んだ。

ほら。

 ほら、 また逢えた。


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