飃の啼く…第15章-20
「あった!」
核を見つけ出す。
「飃、見たくなかったら見なくてもいいのよ。」
飃は、私の目をまっすぐ見返して言った。
「見てるよ。己は見てる。」
私はうなずいて、飃に教えてもらっていた言葉を唱えた。中国で彼が学んだ、破魔の呪文だ。本当はもっと長ったらしくて、もっと細かい作法がある。でも、この程度の低級な澱み相手ならばそんな手順など踏む必要はない。
―天円地方
律令九勝
吾今下筆
万鬼伏蔵
急々如律令―
そして、深々と刀を突き立てられて…澱みは塵となった。「畜生、畜生」と、震えながら、悔しそうに呟いて。
「飃。」
私は、彼の前に片ひざをついて、向き合った。
なんて恐れのない瞳。この子は、もう自分の運命の船が向かう先を感じ取ってしまったのだろうか。
「これで、お別れよ。」
「うん。」
そうして、少しだけうつむいた。
「また、逢える?」
私は笑いそうになってしまった。いや、泣き出しそうになった、の間違いだったかもしれない。口から出たのは、震えた笑い声だったから。
「逢えるよ。絶対逢える。」
「約束だよ?」
私は小指を差し出した。彼の手をとって、その小さな小指と絡ませる。
「約束!」
私は、彼の柔らかい黒髪をくしゅっとなでて、
「さあいきな!お父さんと、弟と、この村を守るんだよ!」
彼は素直にうなずいて、そのまま走っていった。もう一度後ろを振り返る頃には…私の姿は消えている。さようなら。そして、また逢おうね。
「油良さん!おわったよーっ!」