飃の啼く…第15章-19
+++++++++++++
「もうっ!」
いつ澱みが襲って来るのか判らないのに!
私は、近くの家の軒先にあった猟刀を借りて、飃の後を追った。
「飃ーっ!」
初めて会った、川のほとりで石投げをしている彼を見つけた時は、肺の中の空気全て吐き出すくらいの溜め息をついた。良かった…!
だが、彼が何に向かって石を投げているのかが分かって、身体中の血液まで全て失ったような気がした。川の対岸に、うずくまる黒い影…
「飃!逃げて!!」
影は、一瞬低く身を屈めて、大きく跳躍した。その姿は、まるで蝙蝠(こうもり)だ。飃はそいつに向かってうなり声を上げている。動けないのではなくて、動かないのだ。
勇気があるのは良い事だけど、ここまで来るとただの無鉄砲…!
蝙蝠の大きな顎(あぎと)が飃に到達するすれすれの所を滑り込んで、飃を抱き止めた。
「邪魔するなよ!己がこいつを倒すんだ!!」
胸の中で必死に抵抗する飃。
「ケケェ、人間かよ!」
私は両手に握った刀を握り直し、
「人間よッ!!文句あんの!?」
切りかかっていった。九重はないし、この刀もただの猟刀だけど…核さえ見つけられれば、何とかなら無い事も無い!
大きな翼の間接部についた鉤爪が襲い掛かってくる。
「く…!」
飃を抱いて澱みに背を向ける。
「な…何をしてるんだよ!敵は向こう…!」
「三十六計!」
大きな声で遮る。
「逃げるにしかずっ!!」
ごろごろした河原の石に足をとられないように慎重に走る。
「チぃ…逃げようてったってそうは…!」
背中に感じる悪寒。それに続いて伝わってくる殺気。
もう一度、もう一度飛べ!
ざっ!
と、石を蹴り上げる音がした。5メートル…3メートル、2メートル…!
私は、一瞬でその場にしゃがんで後ろを向いた。二本の刀を、奴の飛んでくる方向に掲げる。
「げ、え・・・!」
蝙蝠は其のまま突っ込んできて、私の刀にまんまと腹を裂かれた。私の足元の飃は、目の前の光景に目を見張っていた。
「ぎ、ぎしゃああぁあ!!」
ごぼごぼという気味の悪い音をのどの奥からさせながら、蝙蝠は悲鳴を上げる。
思いがけない形で戦いの姿を見せたけど、私もあなたも、こうやって生きていかなきゃいけないの。
地面にのた打ち回る澱み。ばっくりと開いた腹からは体液が流れ出て、川の流れに乗って消えてゆく。私は、すごく冷静に、その腹の中を刀で探った。