飃の啼く…第15章-12
「賛成する親は居らんじゃろう。娘も、婿も死に、挙句の経てに孫は戦いに明け暮れて…命を落とすやもしれん…それでも…。」
利三郎の目に、涙が浮かぶ。ここ数日流し続けた涙のせいで真っ赤に腫れた目が、再び潤んでくる。
「それでも、親っちゅうもんは、最後に子供の頼みを、聞いてやらにゃあいかん…。」
彼は大きく咳払いをし、立ち上がった。
「化け物があの子の何を狙っていようと、あんたがついていてくれるなら安心でしょう。」
そう言って、部屋のドアを開けた。とたんに家中の喧騒が入り込んでくる。
「飃殿…くれぐれも、あの子のことをよろしく頼みます。」
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他の人が作ってくれたご飯を食べるのなんて、何年ぶりだろう。
すっかり仲良くなった飃と手を握りながら帰ると、そこには私の分まで用意された夕飯が並んでいた。
一人暮らしをはじめてから、夕方になると町を漂い始める夕ご飯の匂い。きっと、子供の帰りを待つ母親が、心をこめて作って居るんだろうなというところまで想像しては…我知らず嫉妬した。そして自分の惨めさに嫌気がさしたものだ。
でも、今日は…
「たんとあがってね。」
そう言って差し出されたご飯に、思わず目頭が熱くなってしまった。
飃は、まだはいはいを始めたばかりの弟とじゃれ合っている。
「飃、早く食べてしまいなさい。」
父親が声を掛ける。
「はーい。」
ばたばたと、飃が私の隣の席を陣取った。
「このひと凄いんだ!すっごく強いんだよ、父さん!」
ほう?と、お父さんが眉を上げる。
「ほんとだよ!己、一回も勝てなかった!」
鍛えてくれたのはあなたなんだけどね、と心の中で思った。
「お強いのねえ…」
飃のお母さんが、小さな颯君を抱っこしながら言った。
「貴女なら、最近噂になってるあいつも、倒せるかもね!」
「あいつ…?」
「これ、お客人に何とこというんだ!」
飃をしかりつける。私は話の続きが気になってお父さんに聞いてみる。