飃の啼く…第15章-10
「…私も小さい頃、よくいじめられたな。」
その隣に腰掛けて、話しかけた。
「ほんと?どうして?」
素直な反応に、笑顔をこらえることが出来なかった。
「私ねえ、お母さんを早くに亡くして、その後すぐにお父さんも死んじゃったんだ。だから、よくいじめられた。」
「ふーん。」
彼は、大きな金色の瞳を興味深そうに私に向けた。
「悪口、言われた?」
少し恥ずかしそうに、彼は目をそらす。プライドの高い飃のこと。人から中傷を受ける立場に居ることが恥ずかしくてたまらないのだろう。そんな彼の気持ちを楽にしてやりたくて、本当のことを言った。
「言われたよ…たっくさんね。」
私は靴を脱いで、川の水に浸した。冷たくて気持ちいい。揺れる木漏れ日はフラッシュのように輝き、木々の葉は濃い緑。狂ったようにむせび泣く蝉が、今は夏なんだと教えてくれた。
「…やっつけたくならなかった?」
「もちろん!だから、おじいちゃんにいっぱい教えてもらったの。どうやって生意気な相手を懲らしめてやるか。」
飃の目が輝く。
「ほんと!?良いなあ!どんなことを教えてもらった?」
「まず第一に!」
思い出せる限り、昔のおじいちゃんの声を真似して言った。
「相手の目をよく見ること!第二に、絶対に謝らないこと!第三に…」
飃の顔を見る。真剣に聞き入っている。
「絶対に相手を傷つけないこと。」
最後の約束で、飃は少し気落ちしたようだった。小さな頃の私と同じように。
「相手はね、自分が悪いことを言ってるな、って解ってるのよ、実は。だからじっと聞いててやるの。相手が自分の言ってることが間違ってて、恥ずかしいことだってわかるまでね。そのうち目をそらして逃げてくから、そうすればこっちの勝ち!」
飃は、なんとなくふに落ちない様子で聞いていた。
「そうかな…。」
「そうよ!だって私はこれで何人も負かしてきたもん!」
「ほんとに?」
顔を上げた飃の目が、日の光を取り込んで宝石のようにきらきらと光った。
…なんて美しいんだろう…。
「ほんとよ。」