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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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The Hint Of The Storm-8

「ナナ!」

僕は走り出した。若葉の顔を一度も見ることなく。一度も振り返ることもなく。その間、頭の中では同じ思いが渦巻いていた。



なんでだよ!僕はただの殺人のための道具のはずじゃないか!いまさら…いまさらそんな…いままで獲物としか見ていなかった奴らに、優しくされて、仲間なんて呼ばれて…どうしたらいいって言うんだよ!

…殺人マシンで居たほうがどんなに楽だったか…擾は僕を道具と呼ぶ。夕雷は半端者と言い、若葉は狗族だ、仲間だと…僕は一体誰なんだ?誰が「僕」を決めてくれる?!



そして、飃という狗族が言っていたことを思い出した。



―だからこそ、自分が手にかけたものたちが誰か、解らせてやりたいのだ…その後でまだ、生きていようと思えれば…それはそれでいい…



今、解った。ようやく理解した。僕が殺されなかった理由…全ては僕が何をしてきたのかわからせるために。僕が誰を殺してきたか。そして、僕が何者なのか知らしめるために。



僕は狗族だ。それは紛れもない事実。

でも、僕は手にかけた。たくさん。沢山。あんなに優しい人たちを。あんなに善い狗族のみんなを。



もう、戻ることは出来ない。飃さんの狙い通り、死んでしまったほうがいいのかもしれない。僕のような、狗族の面汚しは。

「どうしたら…。」

口をついて出てきた声さえ、もはや自分のものとは思えなかった。裏切り者の、忌まわしい声。



森のどの辺りに来たのかわからなかった。見たことの無い景色だ。そして、日はすっかり暮れていた。忌々しい腹の虫が、夕飯をせがんで鳴く。夕飯…若葉のお母さんの温かい料理。若葉が握ってくれたおにぎり…今や全てが、あの人たちのしてくれたことに結びつく。だが全てはもう無意味なこと。僕は悟ったのだから。

裏切り者、裏切り者。狗族の血を汚す、忌まわしい裏切り者。

本当はみんな僕の正体を知っていたかもしれない。みんな僕の見ていないところで用心していたとか…いつ殺されるかとびくびくしていたかもしれない。そう思うと、耐えられなかった。

飃ってやつは、まんまと自分の思い通りに僕を懲らしめることが出来たってわけだ。



泣きたいのか、怒りたいのか…頭の中で渦を巻く激しい思いをただ鎌にぶつけた。ガキン、という音が森中に響いてこだまする。それでも、枝一本落ちない。

お前の鎌は鉄砲玉だ?鎌が道具のままなのは僕のせいだって?煩(うるさ)いよ、煩い!!

本当は心の中で、僕のことを憎んでいたくせに!


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