The Hint Of The Storm-14
なんと、取るに足らない相手じゃないか?
僕は背中の痛みと、背骨の軋みを感じながら、それでも声高く笑った。
「もう僕に命令なんてさせないぞ、澱み!」
お前のちんけな名前すら、この僕が奪ってやる。お前たちが奪ってきた全てのもの…それらが流した、沢山の哀惜の涙にかけて、僕は微塵も負ける気がしなかった。
「うるせえ!オレの名は擾だ!!」
怒りにわれを失った愚かな澱みの、懐に鎌を送るのはあまりに容易い。これで終わり…そう思った瞬間だった。
「―ナナ!」
瞬時に鎌を引く。
「く…そ…。」
『愚かな澱み』は、勝利の匂いに鼻を引くつかせて、笑っていた。
「よくやったなァ…。」
「当たり前だろ…。」
二人目の擾…そして、若葉。
「ナナ!?何なの?この人たちは一体…!?」
腕を縛られ、擾の腕にとらわれている若葉の顔は、困惑と恐怖に歪んでいた。
「お嬢ちゃん…こいつはねえ、こんな顔して、俺たち澱みのスパイなんだよなァ…この村に入り込んで、狗族のがきを一匹調達するためのなァ…。」
「うそ!嘘よ!」
必死で身をよじって逃れようとするけど、体格と力の差は歴然だ。足を蹴られても、びくともしない擾は、もがく若葉を虫けらを見るような目で見ていた。
「…彼女を放せ!」
「ほら?否定しないだろ?」
愉快そうに擾が言う。何かを否定するように、若葉は力なく首を振り続けていた。
「…放せ!僕が戻れば満足なんだろう!」
擾は何も言わずに、僕を見ていた。
「主を“澱み”呼ばわりした犲を?」
もう一人がつなぐ。
「俺たちが使うって?」
そして、二人同時に、同じ顔で笑った。その光景は、一生悪夢となって僕を呪い続けるだろう。けたたましい笑い声が、森に住む生き物たちを怯えさせるのが感じられた。