花ときみ-1
PM11時、花屋のバイトから帰ってきた祐樹(ユウキ)は、自分のベッドに見知らぬ少女が寝ていることに気付いた。
「……ッ!?」
彼は驚いて声もだせない。
鍵はしめていたし、窓も開いていない。しかもここは3階だ。この少女はどこから入ってきたんだろう。
祐樹がうろたえていると少女はもぞもぞ動いた。
祐樹は少女の近くに寄り、顔を見た。花の香りがどこからかする。
少女はゆっくりと目をあけた。
「おかえり〜」
少女は祐樹の顔を確認するとまだ寝呆けた声でしゃべった。
「きみ、誰?」
年は10〜12歳か、柔らかそうな長い髪が印象的な少女を追い出すこともできず、祐樹は尋ねる。
「あたし?あたしは花の精」
彼女はほほえんで答えた。
彼は困惑する。こんな小さな女の子が自分の部屋にいることに。
しかも彼女は花の精とか言って自分をからかっている。
「うちどこ?送ってくから」
彼はため息をついた。
「教えなーい、祐樹あたしのこと信じてないもん」
このクソガキがぁあああッと心のなかで彼はブチ切れる。が、こんないたいけな少女相手に怒る彼ではない。
「うちの人が心配するよ」
「しないよ」
「家に帰ろう」
「あたしの話聞いてくれるまで帰らない」
彼は大きなため息をついた。
「分かった。じゃあきみの話を聞くよ。どうやって俺の部屋に入ったの?」
「ほんと?ありがとうッ祐樹」
少女は笑った。
「あれ?俺の名前………」
「知ってるよ、祐樹の名前も祐樹が大学前の花屋でバイトしてることも」
少女はそのあと、だってあたし花の精だもんと付け加えた。
「ねぇ祐樹、あたしがなんの花かあててみてよ。あたしね、祐樹のことが好きで好きでこの気持ちを伝えようと思って人間になったの」
少女は真剣な目で祐樹を見つめる。祐樹には、もうどこまでが嘘でどこまでが本当か分からなくなっていた。