花ときみ-4
「あたしが、人間の姿でいられるのはあの桜が散るまでだから。」
祐樹は分かっていたように頷いた。
「祐樹、祐樹、大好きだよ」
千枝理は泣きそうな顔で祐樹の首に腕を回す。
「うん、俺も」
祐樹も彼女を抱き締めた。
まだ幼いこの少女を祐樹は本当に愛していたのかもしれない。
祐樹が、千枝理を抱き上げる。
やさしく祐樹は千枝理の頬にキスをした。
「わっ…………」
千枝理は相当恥ずかしかったらしく、慌てて祐樹から離れた。そしてしばらく祐樹と話さず部屋の隅にずっといた。
祐樹は笑いながら、彼女に謝った。
二人はこの日をさかいに同じベッドで眠るようになった。
おやすみのキスもしなかったけれど。
生涯、千枝理が、告白した時だけ、たった一回だけの、キスだった。
桜は風に吹かれ始める。
そして千枝理は、ベッドから起き上がれなくなっていた。
祐樹が朝と晩に運ぶ水だけを飲み、その日あった話をして、桜が散る日を迎えた。
「もうすぐ、お別れだね」
「うん」
「なにか、俺に出来ることある?」
千枝理はしばらく考える。
「あのね、花に包まれてお別れしたい。」
「花?ちょっと待ってて、バイト先からとってくる」
祐樹はバイト先へ急いだ。
もうすぐ廃棄になりそうな花を集めたが、量は少ない。
夜に他に花を売っているところも無く、咲いている花を採るのは申し訳なく、祐樹は家に帰った。
「ごめん、これだけしかなくて‥‥‥」
彼はそう言い、千枝理のまわりに花を置く。
「ううん、十分だよ」
千枝理はうれしそうに笑った。
「本当はもっと……」
彼はそこまで言うと、ティッシュペーパーと輪ゴムを用意した。
ティッシュペーパーをじゃばらに折り、真ん中を輪ゴムで止めて花を作り出す。
一つ、二つと彼女のまわりにティッシュペーパーの花が出来る。