花ときみ-3
「夜桜ですね、先輩」
「そうだなー」
「この木、桜だったんですね。入試の時には気付かなかったけど。」
「おまえ気付かなかったの?」
「先輩、気付いてたんですか?」
「俺、入試の時から気付いてたよ。絶対に合格してこの桜が咲くの見ようって思ってたし。」
「さすが、花屋でバイトしてるだけありますねー。」
「関係ないって。ってか俺二次会いけなかった。帰るわ。」
「え?先輩帰るんですか」
「うん、部長に伝えとって。」
祐樹は、家に帰る。
足早に。
家までの道のりが遠く感じる。
早く、早く。
いつのまにか走りだしていた。
「ただいま」
「お………おかえり」
千枝理がいることに祐樹はほっとする。
「あたしの正体わかっちゃったね」
「うちの花屋の前の、桜だったんだな」
「せいかい〜」
少し、二人の間に沈黙が起こる。
「あのね、」
千枝理が口を開いた。
「告白させて、ください」
「あたし、桜の精なの。あなたのことが好きで好きで、人間になって気持ちを伝えにきたの。」
「祐樹が一生懸命、花を世話をするところを見るのが好きだったの。重そうな鉢を抱えて移動させたり、お客さんの話に真剣に答える姿をいつも見てた。」
「祐樹に世話される植物は幸せそうだなって思ってた。」
「だから、今日、入試のときからあたしを知ってたって聞いてすごく嬉しかったの」
「今年、花屋の前に咲く一本の桜すごくキレイでしょ?あれあたしよ?恋する乙女パワーだから」
彼女は、笑う。
祐樹も笑った。
なのに、お互いに泣きそうだった。