冷たい情愛6 俯いた横顔-5
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17:30
「片山さん!すみませんが今日は定時で上がります」
私は急いでパソコンの電源を落とし、書類を整理し始めた。
「お前に定時上がりって概念があったとはなあ…」上司の片山は言った。
26を過ぎた頃から、私は定時で仕事を上がったことなど殆ど無かった。
「金曜日に早く帰るなんて、怪しいな」片山は少し拗ねたように言う。
「内緒です。ではお先に失礼します」笑って答え、私は職場を後にした。
まさか二泊続けて外泊になるとは思ってもみなかったため…
明日着る着替えを購入してから遠藤さんと待ち合わせしなければならない。
新宿のデパートに駆け込み、とりあえずの着替えを購入した。
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待ち合わせは渋谷。
山手線に乗り渋谷の駅へ向かった。
久しぶりの渋谷は相変わらず凄い人込み。
しかし…あの遠藤さんが渋谷で待ち合わせと言った理由がよく分からない。
勝手な想像だが、なんとなく彼には似合わない街に思えた。
「設楽さん」
後ろから声をかけられた。
彼だった。彼はいつだって冷静な顔と声をしている。
普通の恋人のような待ち合わせに、私一人が緊張してしまっている。
「お腹すいてますか?」彼は言う。
「いえ、普段ならまだ仕事の時間ですから大丈夫です」
彼は少し考える顔をした後言った。
「なら、ゲーセンに行きませんか?」
(え?ゲーセン…?)
「設楽さんは、そういう所はお嫌いですか?」
「いえ…行った事がないので…」
店の前を通ることはあっても、私はあの音のうるさい場所が昔から苦手だった。
大学時代彼氏に誘われても決して入ることはなかった。
「行ったことがない…ですかあ…」
遠藤さんは、少しだけ表情を崩した。
気を悪くしたのだろうか。
何故か、この表情が心に突き刺さった。