冷たい情愛6 俯いた横顔-4
「嫌なわけありません」
私は彼に言った。
彼はゆっくり顔を上げ、私を見た。
悔しい…
その目ですら、私には彼の感情を読み取ることが出来ない。
私を試しているのか…おもしろがっているのか…私と一緒に過ごす夜を望んでいるのか…
「今夜も…貴方の部屋に行ってもいいですか?」
今度は私からそう言った。
彼はただ静かに「ええ…」と答えた。
・・・・・・・・・・
彼の部屋に今夜も行く事。
最初は彼が言ってきたことなのに、結局自分が懇願しているような気がしてきた。
それを認めるのが悔しくもある。
私は夕方まで散々、そんな自分に理由付けをしていた。
(どうして私の事を知っていたのか聞きたいだけだ)
実際、その理由も本当ではあるが…
その反面、彼と一緒の時間を過ごしたいと思った。
彼を知りたいと思った。
私の事を知っていると言う彼。そんな彼を…私も知りたいと思った。
どうして彼は、私を自分の部屋に泊めてくれたのだろうか。
彼は私をどうしたいんだろうか。
彼は自分の職場で、同僚とどんな会話をするのだろうか。
そして…恋人はいるのだろうか。
彼の事が知りたくて仕方ない。
こんな気持ちになったのは…ずっと昔のあの時以来な気がする。
私は彼の事を殆ど知らない。仕事で知り合ったばかりの相手。
でも彼の事を考えてしまう。
彼のさっきの…電話を片手に持ったまま、俯く横顔が頭から離れない。
心の中が乱れる。不安で堪らなくなる。
私は、彼の事を…好きになってしまったのかもしれない。