冷たい情愛6 俯いた横顔-2
「設楽、ここ、受託費用が概算とずれてるぞ」
「あ…すみません」
目と目を合わせ話す私と片山。ほんの少しだけ笑っていた。
しかし、他の者が見て決して不自然な表情ではない。
上司が優しく部下を指摘した程度。
気づくと、私たちのやり取りを遠藤さんはじっと見ている。
片山は少しだけ気まずそうに「あ、すみません」と言った。
「そういえば…遠藤さんは、ご出身はどちらなんですか?」
片山が仕事相手にプライベートを尋ねるのは始めてだ。
それだけいろんな意味で意識しているのかもしれない。
「両親は現在東北におりますが…私は高校から関東に出てきているので」
「高校から一人暮らしですか?」
「ええ、親元から通える範囲ではあまり進学したい高校が無かったので」
「親御さんもさぞかし心配されたでしょう」
「親戚筋にあたるものが教員をしていた高校に入りましたので、そうでもなかったようです」
高校時代から親元を離れて一人暮らし…。
遠藤さんがこういう大人になった理由が、少し分かった気がした。
2時間ほど経過し…
無事に今日の打ち合わせ事項はほぼ終わった。
ふいに遠藤さんが言った。
「すみません、社から電話が入っておりまして…少々退席してもよろしいでしょうか」
「ええ、大丈夫です。出て左に行くと、休憩スペースがありますのでそちらで…」
彼が退室した瞬間、片山は言った。
「隙がないというか…若いのに、いい意味でも悪い意味でも感情のない男だよな」
「ええ…いつもあんな感じです」
私は嘘をついた。
正確に言えば…「いつも」ではなく「ほぼ」である。
人間、目は感情を語ると言うが…彼は例外らしい。
いつも、なんの感情もない…冷たい印象の目をしている。
しかし…
夜…私に最初に触れた時…服を脱がす時…彼の指は、本当に繊細に優しく私に触れた。
私の思い違いだろうか…。
私の携帯が鳴る。
着信名を見ると…
先ほど退席したはずの…遠藤さんだった。