狂人達の宴-5
「この間はごめんなさい!急に用事が入って行けなかったの!」
女の子はなおも続ける。
「翌日から、あの場所に現れるの待ってたんだけど来ないし……」
その瞳は潤んでいた。
(こんなに一生懸命に謝ってくれて……やはり天使だ)
「何とも思ってないよ」
「ホント!」
春樹の言葉に女の子は顔をくしゃくしゃにして笑った。
「じゃあ約束!遊びに行こう。お兄ちゃんの行くトコならどこでも良いよ」
そう言われて春樹は答に詰まった。女性と付き合った事はおろか、親しげに言葉を交わした事も無かったからだ。
春樹は思案した挙句、近くのショッピング・モールにあるゲーム・センターへと女の子を連れて行く。
「これならやった事ある!」
女の子がそう言ったのはクレーン・ゲーム。
奇声を発しながら、興じている。だが、何度やっても上手くいかない。
そんな姿を寄り添うように至近距離から見つめる春樹。もちろんゲームの行方などではない。
時折、振り返り彼を見る女の子の髪からはシャンプーの香りがする。そして、密着させた身体からは子供特有の熱気と汗と共に、匂い立つミルクのような甘い香り。
(なんて良い匂いなんだ……)
ひとり妄想に耽る春樹。
「…ちゃん。お兄ちゃん!」
女の子の声が、春樹を現実に戻す。
「…な、なに?」
「ちっとも取れない…ねぇ、代わりに取ってぇ」
「そうは言ってもボクもやった事無いし……」
「そんな事言わずに、ねぇ」
愛らしく懇願する。
春樹は仕方なく代わった。
(要は前後左右をボタン操作すればいいんだ)
春樹は女の子が欲しがっているカエルのぬいぐるみに焦点を合わせると、慎重に2つのボタンを押した。
するとどうだ。初めてのハズなのに目当てのぬいぐるみを掴んだのだ。
「すごい!すごい!」
飛び上がらんばかりに喜ぶ女の子。自分の意外な才能に驚く春樹。