狂人達の宴-4
ー火曜日ー
その日は早く目覚めた春樹。と、いうより昨夜から気が昂まって眠れていないのだ。
(あぁ……とうとう〈天使〉と会えるんだ……あの子と並んで歩いて、それから……)
あの日以来、今日の事、そして、これから先の事にまで彼の妄想は進んでいた。
夜8時の出会った場所。
春樹はその場に佇んでいた。約束した放課後を3時間過ぎたが、未だ女の子は現れ無い。
最初は喜び勇んでその場にいた春樹。まるで世界中の幸せを掴み取ったかのような笑顔で。
だが、30分を過ぎたあたりから一変した。
(どうしたんだろう……)
次第に焦る春樹。
何度も携帯の時計を見たり、辺りをキョロキョロとうかがったりと、挙動が激しくなっていく。
そして1時間を過ぎた頃、
(何かの事故に巻き込まれて……まさか、あの子に限って)
そう思った春樹は、いても立ってもいられなくなり、女の子を探しに行こうと歩き出すが、
(いや……あの子が現れた時に、ボクがここにいなくちゃ)
そう思って再び元の位置に引き返す。
そこから先は、(行きたい自分と、留まる自分)との葛藤を続けた。
その間、辺りは夕暮れから夕闇へ、そして夜へと変化していった。
「何で来ないんだ……ボクの天使…」
夜9時。絶望に打ちひしがれ、重い足取りで春樹は家路へ歩いた。
それは、またしても偶然だった。
春樹は〈絶望の日〉から2日間、部屋に籠って悲しみに暮れていた。
人を嫌って育ってきた。だが、あの子だけは違うと思っていた。
〈友人〉であるビデオもパソコンも、何もつけずに暗い部屋で春樹の呼吸音だけ響いていた。
3日後、少しは立ち直ったのか、彼は昼過ぎに家を出ると、いつもの書店へと出かけた。
いつものようにアダルト・アニメのDVDを眺めていると、
「アッ!お兄ちゃーーん!」
カン高い声が春樹に向けられた。彼は思わずビクッとなり、その方向を眺めた。
そこに天使がいたのだ。
「お兄ちゃん久しぶりね!」
女の子は屈託の無い笑顔を春樹に投げかける。
「あ…あ……」
春樹も嬉しいのだが、上手く表情が作れず顔を引きつらせる。
「今日は、お友達と本を探しに来てたの!そしたら、お兄ちゃんの姿が見えて……」
春樹は女の子の後を見た。
同級生なのだろう。4人の娘が遠巻きに春樹を見ていた。
「ああ……こ、こんにちは…」
思わず頭を下げる春樹。
「この間からの約束よ!どこか連れてって」
女の子はそう言うと、春樹の手を取って、
「ごめん!私、お兄ちゃんと行くから」
同級生達に別れを告げると、春樹を連れて書店を後にする。
そして、少し離れると、突然、春樹と向かい合うと深々と頭を下げた。