ICHIZU…Last-7
「今日はえらく遅くまで起きてるな?」
「うん、お父さんに相談があって……」
「何だ?えらくもったいぶって。好きな人でも出来たのか?」
それには反応せずに、佳代は2人に正対して座ると重い口調で言った。
「私、野球部辞めた……」
「エッ!?」
建司と加奈は驚きの声をあげる。佳代は構わず言葉を続けた。
「今日、退部届けを出してきたの……」
「や、辞めるってどういう事よ!ちゃんと説明なさい!」
加奈は一変、すごい形相で佳代に詰め寄った。
「自分でやるって始めたんでしょ!何があったか知らないけど、最後までやりなさい!」
加奈は一気にまくしたてるように言い放った。
対して佳代は、言い返す事無く疲れた表情で、
「もう、やりたく無いの……」
「それじゃ説明に……」
なおも言おうとする加奈を建司は制すると、
「この間の試合が原因だね……」
建司は優しく訊いた。佳代はただ、うつ向いている。
すると、また加奈が割って入った。
「あんな事で気落ちしてどうするの!」
「あんな事……?」
佳代はうつ向いていた顔を上げて、加奈に視線を合わせた。
その眼は怒りに満ちていた。
「あんな事って何!絶対負けられない試合を、私のミスで落として、罵られたのよ!
そんな目にあってまで野球やりたく無い!私、お母さんのように強くなれないの!」
佳代は怒りの表情で涙を流し、肩で激しく息をしている。
建司は悲しい顔を見せた。
「分かった。佳代がそうしたいんなら仕方ない」
「ちょっと!」
加奈が何か言おうとしたが、またも建司は遮ると、
「もし、やりたくなったらボクらに遠慮せずにやるんだよ。ボクらはいつでも佳代を応援しているから……」
佳代は建司の言葉を聞くと、涙声で〈ありがとう〉と言って、自室へと戻って行った。
「どうするんです?」
「どうって何が?」
佳代が居なくなると、加奈が建司に訊いた。
「だって……あれくらいの事で、野球を辞めるなんて……」
そう言って心配顔を見せる加奈に対し、建司は笑みを浮かべて諭すように言った。
「心配無いよ。ボクと君の子だ。それに、」
建司は加奈に言い含めるように、
「カナリアは歌を忘れたりしないよ……」
「どういう意味…?」
「今に分かるよ」