ICHIZU…Last-19
「嘆願書のコピーを持って来たんだ。1年生も含めて約60名。オマエに辞めて欲しくない人間ばかりだ」
そう言って信也は佳代に数枚の紙キレを渡した。そこには学年と名前、そしてコメントで、びっしりと埋め尽くされていた。
「これを今日、榊さんに渡してきた」
コピー用紙の上にボタボタと佳代の涙が落ちる。もはや文字は滲んで読めない。
「澤田。来年、県大会に行ってくれないか?」
信也の声は届いたのだろうか?
佳代は玄関口にへたり込むように座ると、人目をはばからず声を挙げて泣いた。
加奈も娘の肩を抱いて涙ぐんでいた。
その涙は、この一週間のわだかまりを全て吐き出すようだった。
ー翌朝ー
練習時刻前。榊と永井は今日の練習メニューを確認していた。
「じゃあ、午後からはバッティングをメインに……」
その時だ。職員室の扉が勢い良く開いた。
2人の視線が向けられる。立っていたのは、ユニフォーム姿の佳代だった。
榊は最初驚いたが、やがてニッコリと笑うと永井をチラッと見た。永井も同じように笑顔だった。
「どうしたんだ、佳代?こんな早く。オマエにしちゃ珍しいな」
佳代は榊の前に近寄ると、モジモジと困った顔をしながら、
「あの〜監督。先日の退部届けを……」
「ああ……」
榊は自分の机に向かうと、一番上の引き出しから先日受け取った《退部届け》と書かれた封筒を取り出して、
「これが、どうかしたのか?」
あくまでワザとらしい演技を続ける榊。
佳代はなおも困った顔で、
「それを〜…返していただけないでしょうか」
佳代の言葉に榊はアゴをさすりながら、
「しかしなぁ、一度受理したモノは、そう簡単にはなぁ〜」
佳代は焦った様子で、
「そこをなんとか!お願いします!」
そう言って両手を合わせて、深々と頭を下げた。
それを見た榊は、急に真面目な顔になると、佳代に言った。
「オマエが入部する際、オレはオマエをテストしたな。覚えてるか?」
佳代は神妙な面持ちで頷く。